朝日新聞朝刊 1998.10.10
現代人の手っ取り早いストレス解消法に、一杯飲んで愚痴るというのがある。自覚できるストレスは、これだけで相当に解消される。しかし飲酒の習慣化は危険だ。男ばかりか、最近はキッチンドリンカーという言葉もある。
ある主婦の例だが、夫は残業続きで、娘と二人きりの毎日を過ごしていた。夕食の支度をしながら酒の味を覚えた。最初はほろ酔いで幸せな気分だったが、午後七時ごろにはボトル半分くらい開けるようになった。たまに夫が早く帰宅すると、居間で大いびきという状況だ。
アルコール症はわが国で二百万人を越えるとされるが、十人に一人以下という説もある。健康診断でγ-GTPが100を超えたら危険信号だ。飲み過ぎると、しばしば睡眠を中断され、いびきをかいて無呼吸状態に陥る。「お酒って、ほんとーに怖いですねぇ」と淀川長治氏流に言えそうな映画が『男が女を愛する時』(1994年)だ。主演はメグ・ライアン。父親がアルコール症だった彼女は、パイロットの夫と可愛い娘二人に囲まれながらも、ウォッカをラッパ飲みにするようになる。夫役は『ゴッドファーザーPARTIII』のアンディ・ガルシアだ。
幾度となく断酒を決断し、自宅前のごみ箱にウォッカを瓶ごと捨てるが、また引っ張りだして飲む。次第に家事も育児もできなくなり、ついに精神病院に入院する。
離脱症状と闘い、決意を固めるために断酒グループで飲酒歴を語り、やがて退院する。しかし、まだ夫に理解されていないと、いらいらする日が続く。夫も家族の会に参加する。最初は抵抗を感じて席を立つが、やがて自ら苦悩を語り出し、妻のさみしさを知る。辛抱強く支えた夫の姿が感動的な作品だった。
ところで、メグ・ライアンは『フレッシュ・アンド・ボーン』でも、格好いいラッパ飲みを見せていた。本物のお酒好きなのかもしれない。
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