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がんばらない◆やわらかな時間も必要

中日新聞朝刊 2006.06.23


 たまには、新作も取り上げましょう。今回紹介するのは、松竹映画「やわらかい生活」です。


 キャリア街道を突き進んできた主人公の優子(寺島しのぶ)は、両親と親友の突然の死でショックを受け、双極性障害と診断されます。


 双極性障害とは、そう状態とうつ状態が交互に訪れる病気で、いわゆる「そううつ病」です。薬を服用し、布団に潜り込むしかない日々が続きます。しかし、人間はつらい立場、弱い立場を経験することで、今までにない自分を見つけることがよくあります。優子にとって、東京の下町蒲田での新生活は、さまざまな男性たちとの「やわらかな関係」でした。


 うつ病のやくざ・安田(妻夫木聡)との居酒屋での会話に、今までにない気楽さを感じたり、出会い系サイトで知り合った建築家(田口トモロヲ)が実は痴漢だと分かっても、そのやさしさにひかれたり、偶然再会した元恋人とよりを戻そうとしたら、彼も病んでいることが分かったり。いとこの祥一(豊川悦司)が、優子の浮き沈みに振り回されながらも、かいがいしく世話をするのも、楽しい関係です。


 キャリアウーマン時代の優子だったら見向きもしなかったはずの男たちと、ゆるやかに結びつき、ゆったりと流れる時間。その中で少しずつ変わっていく登場人物たち。人生の中で「大切な時間」って何だろう、と問いかける作品です。フランス映画を思わせるような男女の描き方に、邦画の新たな可能性を感じました。


 今、わが国では働く人の200人に1人が、うつ病で休職しています。優子の場合も、発症のきっかけは喪失体験ですが、キャリアウーマンとして頑張り続けたことが背景にあるといえます。フルスピードで走り続けると故障も大きくなりますし、自殺の危険も出てきます。


 仕事が生きがいと頑張りすぎの方、長時間過密労働を強いる経営者の皆さん、ちょっと立ち止まって「ゆるやかで、やわらかな時間」について考えてみませんか。

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