朝日新聞朝刊 1998.10.17
国内に150万人以上の患者がいると言われるてんかんは、神経の病気で、現代では精神疾患から除外されている。かつては精神病とみなされていたが、それにしても、けいれんや意識を失うのが、なぜ精神病だったのだろうか。
かつて、こころの病を、意識の病と人格の病に二分する考え方があって、てんかんは意識の病の代表とされた。人の脳波を発見したのはドイツの精神科医で、神経内科が独立する前は、精神科がてんかんを診てきた歴史も関連している。
しかし、現代では小児科や神経内科、脳外科で治療され、精神科の関与は少なくなっている。発作中に幻覚や妄想を呈したり、極度な不機嫌や興奮を示したりした場合に診ることがある程度だ。
医師は臨床発作と脳波などの検査所見から、薬物療法や、時に脳外科的治療を勧める。薬で発作が完全にコントロールされるとは限らない。
学童期から薬を飲み始め、場合によっては一生飲み続けることは、患者さんにとって大変なストレスである。
服薬が嫌で、夜中に家を飛び出して酒を飲んだり、どうなってもよいと絶食を続けたり、病を受容できない患者さんもいる。
昨年の映画に「何より害をなさぬこと」という原題で、なぜか『誤診』と訳された作品がある。てんかんの幼い息子のいる家族が難治を克服する家庭を描き、メリル・ストリープが息子のために一心に奮闘する母親を演じていた。
公認されていない食餌(しょくじ)療法を行っているジョンスホプキンス大の治療チームや患者の協力で作られた映画だが、一流女優が出演し、てんかんで苦しむ人々にエールを送った点に注目した。
てんかん患者の家族の苦悩は並大抵ではない。映画でも治療効果が出ないときの医師への不信感がリアルだった。私もやぶ医者としかられたことが何度もある。医師の原点を教えられた作品だった。
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