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ピアノマニア(2009年 墺太利・独逸)

愛知保険医新聞刊


 「ピアノマニア」と題する今回の作品は、調律師の真骨頂を描いた作品だ。


 バッハの≪フーガの技法≫の録音を一年後に控えたピアニスト・ピエールの期待に添うべく努力しているのは、調律師シュテファン。数々の名演奏家たちの要求に応えてきたシュテファンは、ピエールの目的に適うピアノを選び、試行錯誤を繰り返す。そしていよいよ録音の日がやってきた。本作に登場する名演奏家たちは九九・九%でも満足できない完全主義者なのだ。たとえばこのドキュメンタリーの軸となるピエールによる≪フーガの技法≫の録音。一台のピアノでオルガンやクラヴィコードのニュアンスが欲しいという要請に応じてピアノ選びから始まり、調律へと進むのだが、絶対音感を持ったレベルの人にしか分からない極微の調整が必須なのだ。完璧を求め、最後の0.1%に労を惜しまない人たちがカメラの前に映し出される。これが真の「マニア(熱中する人)」なのだろう。もっとも調律が完全でも演奏をとちると完璧にならない。マニアには躁病という精神医学的意味もあるが、躁病では注意が拡散し熱中性は成就しない。


 スリーマイルやチェルノブイリの原発事故はオペレーターのミスが原因だった。手術ロボットによる失敗要因は、整備不良(調律)、操作過誤(術者)、手術一般でもあり得る病状急変(被術者)によるのか。医療にも通じる作品でもある。演奏ミスは人命には関わらないが手術はそうはいかない。とはいえ、医療無謬論もヒューマンエラーの現実とはかけ離れている。

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