中日新聞朝刊 2006.04.28
「七月四日に生まれて」(1990年 アメリカ)は、アメリカの独立記念日に生まれた帰還兵を描いた映画です。
トム・クルーズ演じる主人公は、愛国心と使命感に燃えて志願兵となり、ベトナムへ行きます。しかし、戦地で親友を失い、自らも脊髄(せきずい)を損傷し、車いすの身になります。反戦運動が広がる時代、帰国した彼を待っていたのは、周囲の白い目でした。
悪夢、不眠、フラッシュバック、絶望と抑うつなどPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状が現れ、苦しみを紛らわそうと酒やセックスにおぼれる日々。もがき苦しんだ末、彼は友人の助言に耳を傾け、障害を受け入れ、自分の過ちを繰り返させたくないと、反戦運動に身を投じていきます。
健康だった人が中途障害になるのは、大変なことです。絶望的になったり、いつも後悔したり、自殺まで考えてしまう人も少なくありません。
でも、支えてくれる人がいたり、自分が生きていく目的を持てたりすれば、回復・復活・再生の可能性も出てきます。
この映画を見て、K君のことを思い出しました。
明るく活発な大学生だった彼は、三年の夏休みに合コンで海水浴に出かけ、彼女にいいところを見せようと、三メートルの高さの岩から海に飛び込み、腰を強く打って、腰椎(ようつい)を損傷。一歩も自力では歩けず、トイレも、着替えも、お風呂も介助が必要になりました。
それでもK君は障害を受け入れ、苦しいリハビリもこなし、学業を投げ出さず、立派な卒業論文を仕上げ、先端企業への就職も自力で勝ち取りました。
彼の支えとなったものは、何だったのでしょうか。障害の受け止め方、心の回復の道のりは人さまざまです。医療が体と心の両方をきちんと診ることで、K君のような真のリハビリを、一人でも多く実現してほしいものです。
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