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不倫で悩む人健康?不健康?

朝日新聞朝刊 1998.12.12


 超大国の大統領も「不適切な関係」で危うくなる時代である。配偶者に「バカタレ」と言われて愛想をつかされるだけですめば、大いに感謝するべきなのだろう。

 不倫をした本人が、板挟みの葛藤(かっとう)で不眠や憂うつになって来院することがある。「苦しむぐらいなら不倫をするな」と言いたいのだが、ことこの問題では途端に制御不可能に陥る人がいるのが現実だ。

 なぜ現代に不倫が多いのか。精神科の同僚が立てた仮説がある。「現代社会は地位や名誉への階段が確立されていて、高校生くらいでほぼ先が見える。職に就いて求める冒険やスリルは、不倫くらいしかない」という見方だ。

 不倫には構造的・持続的なものもあるが、多いのは機会性・一過性のものだ。仕事などがうまくいって気分が高揚しているとき、逆に心にすきまが出来たときが危ない。

 映画『危険な情事』(1987年)は、仕事が好調で、一度か二度の遊びのつもりが、取り返しのつかない事態を招くケースを描いている。

 自分は一度きりと思っても、相手は違う。マイケル・ダグラスが演じる弁護士は、その代償に自分と家族に降りかかる危険と悪戦苦闘する。グレン・クローズがホラー映画並みに怖い女を演じる。見れば不倫の恋も冷めそうだ。『失楽園』や『マディソン郡の橋』に共感する人も多いという。しかし、不倫は日常から逸脱した領域だ。それぞれの状況によってわき出すほんのわずかな羨望(せんぼう)、嫉妬(しっと)、憎悪、敵意などが、一気に破壊的行動に直結しやすい。そういう危険領域なのである。

 不倫されて妻が怒るのは、健康な反応だ。ところが夫の不倫は、自分が至らなかったからだと落ち込む人もいる。不倫は、してもされてもストレスがたまるので、不倫しかえすのも逆効果だ。

 落ち込んで来院する不倫の当事者に、どう対応するべきか。悩む人と悩まない人、どちらが健康なのかと考え込んでしまう。

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