朝日新聞朝刊 1998.10.24
「眠れない」と精神科の外来を訪れる人が増え、睡眠薬の銘柄さえ指定してくる人もいる。日本人の四人に一人は不眠に悩んでいる。
日の出とともに目覚め、日が暮れると眠りを待つ。そんな自然な暮らしを、現代社会は許してくれない。仕事に遊びに、睡眠時間は無駄なもののように奪い去られている。
不眠は中高年の女性に圧倒的多い。寝つきが悪く、夜中に何度も目がさめる。ちっとも眠った気がしない。日中も別に眠くもないし、生活に支障はないが、眠れないのが怖いのだという。体質的不眠症といってもいいが、実はさまざまな不満や悩み事が背景にあるケースが多い。
安眠まくらに安眠羽根布団、ラベンダーの香りにモーツァルトの音楽までそろえ、万全の態勢でベッドに入っても、だめなときはだめだ。
映画『眠れない夜はあなたと』(1994年)は、どうしても眠れない男と女が、ドラッグストアで一箱だけあった睡眠薬を取り合う出会いの場面から始まる。二人は上院議員選挙の対立陣営のスピーチライター同士。グラマラスなジーナ・デイビスと、案外まじめなマイケル・キートンが、お互いを思ってますます眠れなくなり、やっと恋がかなって安眠できるというラブコメディーだった。
しかし、最も多い不眠症の原因は、痛みやかゆみなどの身体病である。次がうつ病や不安病などの精神疾患。次に「ただ眠れない」という純粋な睡眠障害がくる。何年にもわたって不眠が続くと、苦しくて自殺を考える人もいる。
眠れないと交感神経が活発になる。ストレスが不眠を呼び、不眠がストレスになるという、不眠と不安の悪循環が形成される。それをどうやって断ち切るかが問題だ。
日中に自然光を浴びることや、規則正しい食事、運動で適度に疲れることも大切だ。睡眠学の教科書には、ベッドでは睡眠とセックス以外はしないようにと書かれている。
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