
愛知保険医新聞刊
人生は出会いと別れの繰り返し。最愛の人との死別に勝るストレスはないが、生別(離婚)も、その死別の四分の三近い心理的外傷をもたらす。結婚十四年で一人娘と父の四人で暮らしている夫婦に、重大な選択の時が訪れる。父の介護か娘の将来か。認知症に罹患した父のために国外移住はできないと主張する夫と離婚してでも国外移住を希望する妻。夫婦の絆は綻び、嫁は実家に帰る。
やむなく夫は家政婦を雇うが、イスラム教徒の家政婦は失禁を目にして激しく動揺。家政婦が目を離した隙に、認知症の父が徘徊し危うく車に轢かれそうになる。夫が帰宅するとベッドに手を縛られた父が倒れ、気を失っていた。戻ってきた家政婦に怒り心頭の夫は、彼女を手荒く追い出す。その晩、家政婦が入院したことを知って、夫婦で様子を見に行き流産の事実を知る。十九週目の胎児を殺した殺人罪で告訴され尋問を受けるはめに。一方、家政婦が父に行った虐待的行為を告訴。裁判は次第に多くの人々を巻き込んでゆく。家政婦の夫は失業中で、お金欲しさに示談に応じようとするが、家政婦は良心の呵責に悩む。中東の悲哀とムスリムの誠実さを淡々と描いた本作は、認知症の親の介護問題を除けば、先進国では理解されにくい。狭い地球上の話なので、生きる環境は異なっても人の悩みは変わらない。
本作は本年度アカデミー賞外国語映画賞を受賞(&ゴールデン・グローブ賞で外国語映画賞ダブル受賞)したイラン映画だ。イングリッド・バーグマン似の美人妻役はさりげなく作品を盛り上げている。
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