中日新聞朝刊 2006.05.12
糖尿病といえば、肥満による生活習慣病をイメージしがちですが、これは「2型」の肥満型糖尿病のこと。生まれながらにしてインスリンという血糖制御ホルモンが不足している「1型」の若年性糖尿病に苦しむ人たちがいます。 患者さんの多くは、1日4回、指先から採血し、血糖値を測ってインスリンの注射をしなければなりません。うつ状態になったり、急激な発作で命を落とす人もいます。
映画『マグノリアの花たち』(1989年 アメリカ)は、この病気を抱えた若い娘と、娘を支える地域の女性たちの物語です。
舞台はルイジアナ州の田舎町。ジュリア・ロバーツが演じる娘は、病気を理解してくれる男性と愛をはぐくみ、結婚します。ところが、おめでたとなった途端、事態は一変します。
健康な人でも妊娠・出産は大変ですが、糖尿病の患者さんは妊娠腎といって糖代謝が悪化し、病状が進むことがあります。当然、母親は反対しますが、娘はそれでも産みたいと決意。つわり、腎臓病、無呼吸症など次々に襲ってくる危険を乗り越えていきます。
彼女を支えるのは、母親、近所のおばさん、見習美容師・・・。それぞれに悩みをかかえながらも、ストレスをおしゃべりで発散させている女性たちです。ふだんは口げんかばかりなのに、娘が低血糖発作を起こすと、さっと協力し合って、手当てをしたりします。
温かい愛情、友情に囲まれ、娘は出産しますが、腎臓障害を起こし、母親から腎臓の提供を受けます。でも、平和な日々が戻ったのはつかの間でした・・・。悲しい結末の中にも、最後まで自分らしく生きた患者さんと支え手の姿が感動的でした。家族だけが介護にあたる日本とは違う文化が、古きよき時代のアメリカにはあったようです。
日本だって昔は地域の中で、障害者も高齢者もわんぱく少年も、みな一緒に暮らしていました。専門病院、専門施設を次々とつくって、障害者を地域から切り離してきたことで、社会が失ったものは大きいと思います。
Comments