有名人多数、うつ病に悩んだ

朝日新聞朝刊 1999.1.23  かつて内因性精神病といわれたうつ病は、ストレス社会も関連してこの三十年で六倍に増加した。近年は、何をもって内因性というのか再検討されている。  うつ病は、英語でディプレッションという。不況の意味もある。「ザ・グレート」がつくと1929年の世界大恐慌をいう。ブルーな時代だ。  景気も人の気分も、基準線を上回ったり下回ったり、似ているところもある。不況下でも景気予測には悲観と楽観があるのに対し、気分の方はうつになると悲観ばかりだ。なんとかなるとはとても思えず、自分が卑小に思え、自殺すら考えるから深刻だ。  陰うつさ、暗さ、悲しみを昇華させた偉大な作曲家チャイコフスキーも、うつ病だといわれる。英国の首相チャーチルもそうだった。  うつ病を描いた映画はみたことがないが、躁(そう)うつ病ならリチャード・ギア主演の『心のままに』(1993年)がある。  音楽大学を卒業した主人公は、気分がハイになって鳥のように空を飛びたいと、屋根の上を両手で羽ばたいて端まで歩く。ヒヤヒヤするシーンだ。それが一転、落ち込むと涙が止まらなくなる。精神病院の救急治療室で注射を受けたり、リチウムを投与されたりする場面がリアルだ。  主治医を『存在の耐えられない軽さ』のレナ・オーリンが演じ、発症の契機が大学時代の失恋にあることを突き止める。医者と患者が恋愛関係に進む筋立ては、現実感がないからか、鑑賞した患者さんたちにも不評だった。  作家、映画俳優、芸術家ら有名人のうつ病はけっこう多い。たいへんな仕事をするからうつ病になるというより、人生を長い幅でみれば、うつ病になっても偉大な仕事を成し遂げられたというべきなのだろう。  米国の大学には七年勤務すると一年フリーにするという制度がある。一生疲れず、休まず、元気に仕事を続けるほうが幻想なのかもしれない。