熱意見せぬ友 揺らぐ医学生

朝日新聞朝刊 1999.3.13


 医学生のM君が、眠れないと相談に来た。二十代の若者が入眠障害に陥るには、よほどの葛藤(かっとう)があるに違いないと思って話を聞いた。  M君は「みんな患者さんに貢献するために、真剣に学問に励んでいるに違いない」と考えて入学した。ところが周りにいたのは「プライドだけは人一倍強いくせに、平気で授業をサボり、異性遍歴を自慢したりする特権意識の権化のような者ばかり」だった。「こんな人たちに囲まれて、自分はまともな医者になれるだろうか。」そう思うと眠れなくなったというわけだ。  M君は、幼いころから農作業を手伝い、種まきや収穫の喜びを知っている若者だ。異次元の世界でアイデンティティーが揺らいだらしい。  映画『恋の闇(やみ) 愛の光』(1995年)は、貧困と飢餓に加えて疫病ペストがはやっていた十七世紀、清教徒革命後のイングランドが舞台だ。ロバート・ダウニー・ジュニアが演じる優秀な医学生は、チャールズ二世のペット犬を治療したことから気に入られ王宮に入る。 酒池肉林の味を知って、遊興生活になじみ、ついには王に追放される。  ダウニーは医学生時代の親友を頼り、修道院を訪れる。そこでメグ・ライアンが演ずる産後のうつ病らしい女性患者と出会う。医師が患者と親密になることは当時でもタブーだったらしく、二人で修道院を出るが、メグは娘を産んで死ぬ。ダウニーは娘を連れて、献身的にペストに立ち向かう。その姿が再び王の目に留まり、許されて、王立病院の運営を任される。「気まぐれの恋は闇だが、真実の愛は光」という、医師の原点を教えられる作品の一つだ。  この春も八千人近い医学生が卒業する。悪貨は良貨を駆逐するというが、M君のような人がストレスを感じてしまうのは倒錯した世界だ。優秀な頭脳に負けない豊かな愛情もはぐくんでほしい。  ところで、M君の不眠は一週間ですっかり改善した。