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第18回 ◆評決(1982年 米国)

菱電工機エンジニアリング株式会社の社内報にて連載しているエッセイです。 年4回の掲載となります。

イソップ寓話集に「病人と医者」と題する小話がある。

 病人が医者から容態を訊(き)かれ、異常に大汗をかいたと答えると、それは良い按配(あんばい)だと医者は言った。二度目に様子を問われ、悪寒がして震えがとまらないと答えると、それも良い按配だと医者は言う。三度目、やって来て病状を尋ねるので、下痢になったと答えると、それまた良い按配だと言って、医者は帰って行った。 親戚の者が見舞いに来て、加減はと訊くので、言うには「良い按配のお蔭でもう駄目だ」

 飲んだくれの落ちこぼれ弁護士ギャルヴィン(ポール・ニューマン)も、かつては一流大学法科を主席卒業し、権威ある法律事務所に勤務しエリート・コースを歩んでいた。それが先輩の不正事件に捲き込まれ、クビになり妻とも離婚、そのまま転落の一路を進んでいった。よき理解者の老弁護士ミッキーが、ギャルヴィンに、出産で入院した女性が、麻酔処置のミスで植物人間になった医療過誤事件を持ちかけた。原告側証人である大病院の麻酔科の権威、グルーバーに面会し、完全な医師のミスであることを確信したギャルヴィンは、廃人となったデボラの姿を見て、怒りを感じるのだった。訴えられた聖キャサリン病院は、病院の評判が傷つくことを恐れ、ギャルヴィンに示談を申し出たが、ギャルヴィンは断るのである。事件は法廷にもちこまれ、教会側に雇われた被告側弁護士コンキャノンが動き出した。ある夜、ギャルヴィンは、行きつけの酒場で、謎めいた範囲気をもつローラと知り合った。そんなころ、彼の最大の頼みである重要証人のグルーバー医師が、寝返って姿をくらます。窮地に追い込まれた彼の唯一の支えとなったのはローラだった。有利の状況が見出せぬまま開廷の日が来てしまう。事件の焦点は、患者デボラが、なぜ、麻酔マスクの中で嘔吐し窒息状態になり脳障害を生じたかにあった。患者が麻酔処置を受ける1時間以内に食事をした場合ならこの種の事故が起こりうる。しかし当夜のカルテには、患者が食事を取ったのは9時間前と示されていた。ギャルヴィンの最後の望みは、なぜか一切の証言をも拒否している当夜の看護婦ルーニーをくどき落とすことだった。やがてギャルヴィンは、ルーニーが、当夜カルテに食事時間を書き込み2週間前に病院をやめている看護婦ケイトリンをかばっていたことをつきとめた。彼は、ニューヨークにいるケイトリンの居所を探し出しニューヨークに飛んだ。そのころ、コンキャノンの部下としてスパイしていたのがローラであったことを、ミッキーがつきとめた。それを知り愕然とするギャルヴィン。しかし、自分の行動を恥じ、今は真に彼を愛していると告白するローラ。翌日の法廷ではケイトリンが登場し、カルテの数字1を9に書き直したという決定的な証言を発した。

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