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オレンジと太陽(英国・豪州 2010年)

愛知保険医新聞刊


  「アミシュタッド」「ルーツ」など阿弗利加から米国に奴隷売買された人々の苦難を描いた作品が廿世紀にはあった。わが国も伯刺西爾移民や、満蒙開拓団という名の移民政策の歴史を持つ。十六世紀以後廿世紀まで世界を制覇した大英帝国が、恐るべき移民政策を実行していたことが暴露された。それは、児童を親から切り離して集団で、一万六千kmも離れた植民地に移民させたのである。十五年戦争の途上で、英国・豪州が大日本帝国陸軍に敗走したことも児童移民を加速させた一因との説もある。近代英国最大のスキャンダルともいわれる“児童移民”の事実を明らかにした、英国の社会福祉士マーガレットの物語。ある日マーガレットのもとに、豪州から一人の女性が訪れる。「母を探してほしい。幼い頃、船で豪州に送られた」と。マーガレットはその女性の訴えを契機に、驚くべき事実を突き止める。忌まわしい過去を暴露されるのを恐れる巨大組織に脅迫されながらも児童移民のために、母親捜しの活動を開始する。社会福祉士ならではの粘り強い調査活動が徐々に実を結ぶ。英国が四世紀にわたって1970年にいたるまで行っていた児童移民の数は実に十三万人。  この一人の社会福祉士の活動によって、英国政府、豪州政府は正式に謝罪したという。何歳になっても幼い頃の思慕の情を抱く対象は母親である。アイデンティティとは、ルーツとは、深い問題を投げかける作品だ。

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