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だんらんにっぽん -愛知・南医療生協の奇跡-(日本・2011)

愛知保険医新聞刊


 伊勢湾台風の五千人の犠牲者の大半は南区の住民だった。その救援活動を契機に誕生したのが南医療生協である。室生昇医師が先駆となり半世紀、心ある医療スタッフ、組合員が集い、診療所から病院へ、そして天白川の川床よりも低い病院も、新幹線から見える大高の高台に移転新築を果たした。  この記録は、名古屋出身の映画製作者武重邦夫と小池征人監督の編修だが、主人公は六万人の無名の生協組合員だ。先駆的な保健・医療実績を上げたという訳でもない。市場原理主義に抗して、街並みを守った訳でもない。手厚くない医療、貧困な高齢者福祉という現実を前に、組合員の奉仕(ボランティア)活動が発現したのだ。全員参加の生活協同組合の形は会員の責任や労力も必要になるが、班会議での討議を重ねる中で、健康を守る意識が醸成されるのだから、非効率との評価は誤りだ。医療の消費者という受け身の立場から、望ましい医療を要求するという立場に変わる可能性を秘めた住民の登場にこの作品の最大の特徴がある。無策な行政を補完する歓迎すべき住民運動とも云えるが、長期的には行政のあり方を根底から変革する脅威の存在となるだろう。  イタリア映画「人生、ここにあり」は、労働協同組合で組合員の全会一致で経営を成り立たせて自立を促進する作品だった。愛知・南医療生協の足跡ではなく「奇跡」と評するには百年早い。  半世紀の間、南医療生協を支えた人々に敬意の念を込めて。

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