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眠れる美女(伊太利亜・仏蘭西 2012年)

 「何より害をなさぬこと」(ヒポクラテス)の格言にもあるように、医療は万能ではない。手塚治虫は「ブラックジャック」でドクター・キリコ(安楽死の請負人)が登場させていたが、医療の限界を十分に認識していたからだ。安楽死は「不治かつ末期」で「耐えがたい苦痛」を伴う病を持つ人、尊厳死は「不治かつ末期」の病を持つ人の意思によるという点で識別される。緩和ケアの普及に伴い倫理委員会の議題にも上った尊厳死。 二〇〇九年、イタリア全土を揺るがす尊厳死事件が起きた。十七年前、二十一歳で交通事故に遭い、植物状態となったエルアーナの両親は延命措置の停止を求め、二〇〇八年最高裁はその訴えを認めた。しかし教会や保守派を基盤とするベルルスコーニ首相はエルアーナの延命措置法案採決を画策。  この時代を背景にオムニバス形式で三つの事例が交錯して登場する「眠れる美女」と題する作品だ。

  1. 議員のウリアーノは「不治で末期」の妻を「安楽死」させた過去があった。

  2. 薬物依存で二十回も入院歴のあるロッサは院内でリストカットをする。昏睡状態から覚醒した彼女は、飛び降り自殺を図る。

  3. 名女優は植物状態の娘ローザの看病に専念し、エルアーナと娘を重ねて報道に涙した。

昏睡状態に陥るのは何も美しい女性とは限らない。映画のタイトルに騙されることも多い。それは兎も角、人々の生存基盤が根底から揺らぐ中で「尊厳死」だけを論じても虚しい。 

『眠れる美女』 (c) 2012 Cattleya Srl - Babe Films SAS

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