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◆最近のアスペルガー流行りについて

2012年8月29日


 ちょっと個性の強い人で、人付き合いの上手でない人を、「アスペルガー症候群ではないか」などという傾向が目立つようになった。児童精神医学の専門家でもない発達障害をきちんと診たことがない巷の精神科医も「アスペルガー症候群ではないか」と語ることが多くなった。キャンパスのメンタルヘルス支援を担当して久しいが、発達障害の演題や講演が増えて来ており、学生支援の責任者も口をそろえて「アスペルガー症候群ではないか」と日常的に口にする時代になった。アスペルガー症候群流行りの昨今の状況をいささか憂いながら、この一文を書いている。 結論を先に申せば、四半世紀以上前に浅田 彰という若い哲学者が、『逃走論 スキゾキッズの冒険』という本を書いて「スキゾ・パラノ」と言うキーワードで、第一回新語・流行語大賞新語部門銅賞を受賞した際に、「お前はスキゾかパラノか」というラべリング(レッテル貼り)が流行ったことを思い出したからである。 今日も、研究室の指導教員や同級生から「君はアスペルガー症候群ではないか」と指摘されて、不安になった院生が相談に来た。 小中高の適応は問題がなく、部活もしてきており、キャンパスライフでも勉学上も研究上も支障がない大人しい、少し対人緊張の強い真面目な青年である。アスペルガー症候群をきちんと診断できる児童精神科医の同僚が何人かいるので、私がアスペルガー症候群を疑った場合には、必ずその専門家を受診してもらうことにしている。 児童期の精神障害を診たことのない精神科医が安易にアスペルガー症候群と診断するのに比して、児童精神科医の診断は極めて慎重である。18歳未満で発症する発達障害であるが故に、現在症で診断が出来ないことは明らかであるので、母子手帳、学童期の通知表などや保護者の陳述を元に、発達障害の有無を検討してゆく。 それでも結論は、極めて慎重で、確定診断に至ることは少ない。WAIS-IIIで言語性と動作性のIQの差で診断するなどと云う邪道は論外である。  仮にアスペルガー症候群という発達障害があったとしたら、現在、キャンパスで、職場で、どういう点で困っていて、いかなる支援をすれば、どのようなスキルを身に付ければ、より集団での生活が上手く行くのか、という点に焦点を移すべきである。 となると、身体障害でも、うつ病などの精神障害でも、同様、いかなるサポートをすればよいのかという問題解決的視点に立てる。

かつて流行したスキゾかパラノかというラベル貼りで終わったと同様、アスペルガー症候群だから、ああいう非常識な言動もやむを得ないと「了解」してしまう愚に陥ってはいけない。


アスペルガー症候群が注目される背景には、第一に発達障害支援法が2008年に出来たことがある。その第一章 総則には、以下の記述がある。


(目的)

第一条  この法律は、発達障害者の心理機能の適正な発達及び円滑な社会生活の促進のために発達障害の症状の発現後できるだけ早期に発達支援を行うことが特に重要であることにかんがみ、発達障害を早期に発見し、発達支援を行うことに関する国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、学校教育における発達障害者への支援、発達障害者の就労の支援、発達障害者支援センターの指定等について定めることにより、発達障害者の自立及び社会参加に資するようその生活全般にわたる支援を図り、もってその福祉の増進に寄与することを目的とする。

(定義)第二条  この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。 この法律において「発達障害者」とは、発達障害を有するために日常生活又は社会生活に制限を受ける者をいい、「発達障害児」とは、発達障害者のうち十八歳未満のものをいう。 この法律において「発達支援」とは、発達障害者に対し、その心理機能の適正な発達を支援し、及び円滑な社会生活を促進するため行う発達障害の特性に対応した医療的、福祉的及び教育的援助をいう。


■アスペルガー症候群に関する推薦図書

アスペルガー流行りにはもう一つ、出版ブームも輪をかけていることに留意され、巷にあふれる解説本もまともなものを選んで読んでほしい。児童精神科医、杉山登志郎、太田昌孝の両氏は長年の友人だが、発達障害に長年取り組んでいるだけではなく、その診断と療育においても豊富な臨床経験の持ち主である。


1)発達障害のいま (講談社現代新書)杉山 登志郎 (新書 - 2011)

2)発達障害 (こころの科学セレクション)太田 昌孝 (単行本 - 2006)

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