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束縛◆ストレス解消には映画

  • 執筆者の写真: kayukawa-clinic
    kayukawa-clinic
  • 2006年4月7日
  • 読了時間: 2分

更新日:2024年11月29日

中日新聞朝刊 2006.04.07


 「健全なる精神は、健全なる肉体に宿る」  これは、オリンピックの創始者クーベルタン男爵の有名な言葉(古代ローマの詩の一節)です。しかし、肉体が健全でも精神を病む人は少なくありませんし、精神を病むと肉体にもさまざまな不調が表れます。体を強く鍛えれば、心も健康になるわけではありません。  今、わが国では毎日ストレスを感じて生きている人が、十人に六人以上います。四人に一人近くが「毎晩よく眠れない」と感じており、五人に一人以上が不眠を経験しています。一億総ストレス時代といえるでしょう。  私は、心に病を持つ人たちのケアに携わって三十年になります。病院で二十五年間勤務した後、大学生のメンタルヘルスに取り組んでいます。  以前、精神病院の映画会で、山田洋次監督の「男はつらいよ」シリーズを上映したとき、目に涙をいっぱい浮かべていた看護師がいました。  皆さんご存知の「男はつらいよ」は、自由人・車寅次郎を主人公とする抱腹絶倒の喜劇ですが、定職を持たない気楽さと不安定さを見事に描いています。仕事や学校に束縛されストレスをためている現代人と対照的な生き方です。  せっかく家に戻っても、家族ともめて、また旅に出る。「どうせ俺なんかいない方がいいだろう」と捨てぜりふを吐いて、あてもない旅に出る寅さん。多くの日本人が、寅さんを見て大笑いして、すっきりして、一歩映画館を出ると、忙しい日常に戻っていきました。涙を浮かべていた看護師も、映画に癒やされた一人でしょう。  私は、ストレス解消には映画が一番だと思っています。四歳から九歳まで毎日、近所の映画館に潜り込んで過ごしていたからです。その映画館も火事で焼け落ち、田舎町にもう一軒あった映画館もいつのまにか姿を消し、家庭にテレビが入りました。町の社交場、大人の憩いの場であった映画館の消失は、同時に人々のふれあいが希薄になる象徴的な出来事でもあったのです。  この連載では、映画の癒やしの世界をたどっていきます。

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