伝わらぬストーカーの病理

朝日新聞朝刊 1999.3.27


 連日の手紙や電話攻勢、行く先々への追跡、はては無言電話と四六時中の過剰接近でストレスに耐えられなくなったある女性が、「このままでは殺される」と思って国外に脱出した。 良い伴りょに恵まれて帰国したところ、この男性から「なぜ好きでもない相手と結婚したのか」と詰め寄られ、また怖さがよみがえって、精神科にかかるようになった。  ストーク(stalk)は「獣が獲物を捕らえようとして、そっと静かに忍び寄る」という意味である。心の病でも先進国の米国では、毎年かなりの数のストーカー裁判が起き、ストーキング防止法により、被害者への接近禁止令が出るケースが増えている。  尾行、盗聴、脅迫から、障害やレイプに及ぶこともある。映画『ストーカー 異常性愛』(1993年・米)で、ブルック・シールズが追われる女性の恐怖を演じた。日本でも『ストーカー 逃げ切れぬ愛』というテレビドラマが話題になった。  米国の司法精神医学論文によれば、ストーカーは性愛妄想を中心とする妄想性障害と、境界性人格障害とに二分される。だがストーキングの対象になるのは異性とは限らない。  映画『ザ・ファン』(96年・米)は、プロ野球選手が大ファンである自分に感謝しないからと、ロバート・デニーロが選手の息子を誘拐し、ホームランを打って自分に感謝の言葉を表明しろと迫る恐怖と戦慄(せんりつ)の作品だった。  ストーカーは極端に自己中心的で、相手の反応を自分に都合よくしか受け止めない。相手は変わっても似たタイプや同じ職業で、破壊的、操作的、陰謀的な行動に走る。現実検討能力に障害があるので、矯正は極めて難しい。  男女の仲では、片思いの強烈な求愛に心をほだされたり、迫られる側が迫る側に情を抱いたりすることもある。それだけにストーカーの病理は第三者には伝わりにくく、被害者は心の負担が大きくなりがちだ。