効果と副作用、薬は「両刃の剣」

朝日新聞朝刊 1999.2.27


 クスリを逆さに読むとリスク(危険)だ。薬は両刃の剣である。  政治や経済の試行錯誤は許容されても、医療ではそうはいかないのが現実だ。しかし無謬(むびゅう)神話でしばられると、大部分の医師は処方をやめてしまうかも知れない。  精神科の投薬医療でも、命にかかわる副作用や治りにくい副作用が出現することもある。  映画『レナードの朝』(1990年)は、賢かった少年が流行性脳炎で石像のようになって口もきけない大人になり、治験の投薬によって目覚める物語だ。  研究医から臨床医になったロビン・ウィリアムズ演ずる神経科医は、ブロンクスの長期患者病院で、レナードにパーキンソン病に光明をもたらしたドーパミンの前駆物質L-DOPAの投薬を始める。  その結果、レナードは五十歳で三十年の眠りから覚める。支え続けた母に会い、患者を見舞いに来た娘に恋愛感情もおぼえる。ほかに何人かの患者も同じように目覚める。しかし、薬の副作用が出始め、奇跡は1969年の夏だけで終わる。レナードたちは再び眠りの世界に戻った。  ほかの患者たちのためを思い、副作用を承知で薬を飲み続けるレナードの姿が、悲しくも感動的だった。レナードを演じたのはロバート・デ・ニーロ。好演だった。  現実に、パーキンソン病の治験薬であるドーパミン系の薬剤が幻覚を誘発し、精神病の治療薬がパーキンソン症候を引き起こす。このイタチごっこに苦悩しながら四十年の時が経過した。  九十年代になって、パーキンソン症候を起こしにくい抗精神病薬の登場が、米「タイム」誌で、精神病治療の「目覚め」と報道された。  「最善か無か」。医療は、単純な二者択一ではすまない。治療スタッフや家族のねばり強い支えがあった上で、クスリも本当の力を発揮することを忘れてはならない。