精神科医も心の休養が必要

朝日新聞朝刊 1998.12.19


 いまは多くの人が知る「燃え尽き症候群」は、米国の看護婦さんから始まった。神経筋疾患やがんなど、努力しても治せない病気と闘う医療スタッフはストレスが多い。  自殺率の高い職業は、警察官、弁護士、医師だという報告もある。裁いたり、処罰したり、生死に関わったりする仕事は緊張の連続だ。いくら仕事が生きがいでも、ストレスがこうじて高血圧や糖尿病になることも少なくない。  お盆やお正月、医師も休暇を取る。しかし、一週間も主治医が休みだと患者は不安になる。急性疾患なら救急システムやネットワークを完備すれば、二十四時間対応できるが、慢性疾患で主治医が決まっている場合の休診対策は、妙案がないのが現状だ。  休暇中の精神科医と患者の関係を題材にした映画がある。原題の直訳は『ボブ、一体どうしたの』だが、なぜか『おつむてんてんクリニック』 (1991年)というふざけぎみの邦題がついた喜劇作品だ。オスカー俳優のリチャード・ドレイファスが精神科医を演じる。  ドレイファスは、強迫性障害の患者であるボブを、友人の精神科医に頼んで、家族と二週間の夏休みに入る。  ボブは、いつでも、どこでも、なんでも、不安になると主治医に相談する。代わりの医者ではダメで、あらゆる手段を使って主治医が湖畔に家族と滞在しているのを突き止め、押し掛ける。  休みをおじゃんにされて、主治医はストレスがたまり、精神的にまいる。逆に患者だったボブは治って医学部へ進み、精神科医になるドタバタ劇だ。精神科医としては、とても笑って見てはいられない心境だった。  メンタルヘルスが重視され、精神科医が職場や学校に駆り出される時代だが、精神科医自身の健康も忘れてはいけない。  このエッセーの効き目は、お正月休みが明けて、検証されることになりそうだ。