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ペットの存在が心の支えに

朝日新聞朝刊 1999.12.11

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 特にナースは、いつも患者さんの身近にいる。医師が助けられることが多い。ナースをはじめとする医療従事者に大きく依存する日本の医療の現状も、冗談では語れない。  患者さんとの心の触れ合いを最も必要とするはずの精神科だが、患者数に対する医師数は一般科の三分の一でいいと法に定められている。世界に比べて立ち遅れたわが国の精神保健行政の最大の問題点の一つだ。  ところで、病院で偉そうにしている医師も、実は多くの医療従事者の存在なくしては無力に近い。  最近はペットに先立たれて精神科を訪れる人も増えている。ペットロス症候群と呼ばれる。  大評判だった映画『ベーブ』(1995年)『ベーブ都会へ行く』(98年)の魅力は、牧羊犬の役目を見事にこなす賢い豚の芸当もさることながら、動物を下等と見なす愚かなヒトと、動物も同じ地球上の生き物だと愛護するヒトの行動を織り交ぜて描いた点にあった。そこが、単に動物を擬人化しただけの映画と違って新鮮だった。  痴ほう、うつ病などの患者にペットと接触させるアニマルセラピーが最近注目されている。ペットがさみしさをまぎらわせる相手になったり、かいま見せてくれる野生によって、自分の心の自然を保てたりするからだ。傷ついたペットの世話をしている間に外傷後ストレス障害(PTSD)から回復した例も報告されている。  ペットといっても絶対服従ではない。たまには飼い犬に手をかまれることもあるが、人と違って翌日はまた新鮮な関係に戻れるのがペットの魅力でもある。  三匹の猫と暮らしているという不眠症の女性が語ってくれたことがある。ほお擦りしたり、ニャーニャーと猫語で語りかけたりするのは、「愛人と違ってネコはうそをいわないし、裏切らないからだ」という。

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