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院長ブログ


第四十七回 コヨーテ・アグリー(2000年・米国)
人はなぜ恥ずかしさを感じ、なぜその瞬間に顔を赤らめるのか。イソップ寓話「赤面の起源」は、善悪の区別が曖昧だった時代に、神が人間に“恥じる能力”を与えたという象徴的な物語である。そこでは赤面とは弱さではなく、むしろ倫理の証として描かれる。一方、映画『コヨーテ・アグリー』は、舞台恐怖に悩む女性が、自己表現への恐怖と向き合いながら、音楽と人間関係を通して自己を回復していく過程を描いた作品である。人前に立てない恐怖、声が出ない沈黙、そして一瞬の光の中で取り戻される自己。恥ずかしさとは抑圧ではなく、むしろ自己と他者の境界が最も鋭敏になる瞬間なのかもしれない。
2025年5月30日


精神科医も心の休養が必要
人の心を支える仕事は、ときに自らの心をすり減らす。医療、とりわけ精神医療の現場では、患者の苦悩に向き合い続けることが、知らず知らずのうちに大きな負担となる。「燃え尽き症候群」という言葉が示すように、献身的であるほど心身の限界に近づいてしまう現実がある。映画『おつむてんてんクリニック』(原題『What About Bob?』)は、休暇中の精神科医が患者に振り回される姿をコミカルに描きながらも、医師と患者の関係性の歪みや、支える側の脆さを浮き彫りにする。支援する者にもまた支援が必要であるという視点は、現代のメンタルヘルスを考える上で欠かせない。
2025年4月14日


有名人多数、うつ病に悩んだ
うつ病は特別な人だけのものではない。むしろ、時代や環境、そして個人の感受性の中で誰もが向き合い得る心の状態である。かつて「内因性精神病」と呼ばれたうつ病は、ストレス社会の進行とともに増加し、その理解も変化してきた。音楽家のピョートル・チャイコフスキーや政治家のウィンストン・チャーチルのように、歴史に名を残す人物たちもまた、うつと向き合っていたとされる。映画心のままには、躁うつの揺れ動く精神状態を描きながら、人間の心の不安定さと、それでも生きていく営みを浮き彫りにする。うつは単なる弱さではなく、人間の深い内面と結びついた現象でもある。
2025年4月9日


害なき妄想、責められぬが・・・
人間の心は、現実そのものだけで構成されているわけではない。むしろ現実を補うかたちで、誇大な自己像や願望充足的な物語が生み出されることがある。精神医学における妄想は、必ずしも不安や苦痛を伴うとは限らず、むしろ本人にとっては極めて確かな現実として体験される場合もある。1995年の映画『ドンファン』では、数多くの恋愛遍歴を語る男と、それを受け止めきれない精神科医の姿が描かれ、虚構と真実の境界が揺さぶられていく。こうした「信じたい物語」は、時に周囲に混乱をもたらす一方で、害を伴わない限りにおいては、人間の想像力や希望の一形態として理解することも可能である。
2025年4月1日


快と不快を併せ持つ賭け事
人はなぜ「一発逆転」という幻想に惹きつけられるのだろうか。ギャンブルは単なる娯楽ではなく、勝利の高揚と敗北の苦痛が交錯する強烈な体験である。その刺激は脳の快・不快の回路を揺さぶり、時にアルコールや薬物と同様の依存状態を引き起こす。映画『のるかそるか』(1989年)や『ディーラーズ』(1989年)は、庶民のささやかな賭けから金融の巨大な投機まで、異なるスケールでの“賭け”を描き出している。そこに共通するのは、勝てば解放、負ければ破滅という極端な振幅であり、人間の欲望と不安がむき出しになる構造である。安全で安定した生活を望みながらも、同時に危険な賭けに心を奪われる――その矛盾こそが現代人の内面を象徴している。
2025年3月18日


躁うつ病患者らへのエール
感情の高揚と深い落ち込みを繰り返す躁うつ病は、本人にとって極めて過酷な体験である一方で、その振幅の大きさゆえに創造性や才能と結びつけて語られることも少なくない。映画『奇跡の人』で知られる女優パティ・デュークは、自ら躁うつ病を患いながら、その経験を著書にまとめ、同じ苦しみを抱える人々にメッセージを送り続けた。躁状態の万能感と、うつ状態の絶望とのあいだで揺れ動く日々は、決してドラマチックなだけではなく、現実には消耗と葛藤の連続である。だからこそ重要なのは、「劇的な回復」ではなく、安定を保ちながら生き続けるという選択である。本稿では、躁うつ病の特徴と向き合い方を通して、持続可能な生き方の意味を考える。
2025年3月13日


不安・恐怖、薬で抑える時代
日常の不安や恐怖は誰にでもあるものですが、それが過度になると生活に支障をきたすことがあります。過去の体験に根ざした強い不安が行動を縛り、社会生活に影響を及ぼすことも少なくありません。本稿では、映画に描かれた人物像を通して強迫の心理を読み解きつつ、不安と向き合う新たな手段としての薬物療法の意義について考えます。
2025年3月10日


飛行機恐怖症「軟着陸」の方法
飛行機は安全な移動手段とされながらも、「落ちるかもしれない」という不安から強い恐怖を感じる人は少なくありません。一度パニック発作を経験すると、その記憶が予期不安となり、次の搭乗を困難にしてしまうこともあります。本稿では、映画の一場面を手がかりに、その克服に向けた現実的なアプローチについて考えます。
2025年3月7日
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