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院長コラム
—掲載媒体から探す—
院長はこれまで、新聞連載や寄稿記事、専門誌、企業の社内報など、さまざまな媒体で執筆を続けてきました。
映画や文学を題材としたエッセイをはじめ、こころの健康や精神疾患、人間関係、社会問題などについて、それぞれの媒体の読者に向けて発信してきました。時代や読者層が異なっても、人間のこころへの関心は一貫しています。
このページでは、これまでに掲載されたコラムを媒体ごとにまとめています。それぞれの媒体でどのようなテーマが語られてきたのかをたどりながら、お読みいただければ幸いです。


最高の人生をあなたと(2011年 仏・白耳義・英吉利)
人生の後半に差しかかるとき、人はこれまで当然のように続いてきた関係や役割をあらためて見直す局面に立たされる。子どもの独立、仕事からの退場、身体機能の変化といった出来事は、静かにしかし確実に「自分は何者か」という問いを突きつけてくる。
映画『最高の人生をあなたと』(2011年)は、長い結婚生活を経た熟年夫婦が、それぞれの内面に生じた空白と向き合う姿を描いている。表面的には安定して見える生活の裏側で、記憶の揺らぎや老いの不安が関係性の歪みとして立ち上がる構造が印象的である。
特にメアリーの「私の人生って何?」という問いは、個人のアイデンティティが家族や配偶関係の中に埋め込まれていたことを浮かび上がらせる。一方でアダムは別の場所で自らの専門性と向き合い、同じ時間を共有しながらも異なる方向へと精神が離れていく。そこにあるのは対立というよりも、人生の局面によってずれていく「関係の再配置」である。
老いとは単なる衰退ではなく、関係性を再定義する時間でもある。この作品は、その再定義がときに痛みを伴いながらも、新たな距離感として再構築されうることを示している。
2025年1月29日


認知症◆それでも愛されるか
映画『きみに読む物語』(原題:The Notebook)は、認知症という過酷な現実の中で、それでもなお消えない愛のかたちを描いた感動作である。
物語は、記憶を失った妻に対して、夫がかつての恋の記憶を語り続ける場面から始まる。若き日の二人は身分違いの恋に引き裂かれながらも、強い思いで結ばれていく。しかし時を経て、妻はアルツハイマー病により記憶を失ってしまう。夫は日々、過去の物語を読み聞かせることで、失われた絆をつなぎ止めようとする。
本作は、記憶という不確かなものに対して、愛という確かなものがどこまで寄り添えるのかを問いかける。老いと病を超えてなお人を支える感情の深さを、力強く描き出している。
2024年11月29日


きずな◆血は水より濃い
人と人との関係が断絶しても、病という出来事が再び関係を結び直す契機になることがある。血液のがんである白血病は、骨髄移植という高度な医療によって治療が試みられる代表的な疾患であり、その過程では家族や他者との「きずな」が大きな意味を持つ。
映画マイ・ルームは、長く断絶していた姉妹関係が、白血病という病をきっかけに再び向き合うようになる姿を描いている。骨髄移植のために再会した家族は、過去のわだかまりや葛藤を抱えながらも、病を前にして少しずつ関係を修復していく。
この物語が示すのは、血縁という物理的なつながりだけでなく、危機の中で再生される心理的・社会的な結びつきの重要性である。「血は水より濃い」という言葉の意味は、単なる家族愛ではなく、極限状況の中で立ち現れる人間関係の本質として再解釈される。
2024年10月25日


てんかん患者と家族の苦悩
てんかんは神経の異常によって発作を引き起こす疾患であり、日本でも多くの患者が存在する。かつては精神疾患とみなされた歴史もあるが、現在では神経系の病気として小児科や神経内科を中心に治療が行われている。とはいえ、発作の不確実性や長期にわたる服薬は、患者本人だけでなく家族にも大きな負担をもたらす。
映画誤診(原題 First Do No Harm)は、難治性てんかんを抱える子どもと、その治療に奔走する母親の姿を描いた作品である。治療が思うように進まない中で、医療への不信や葛藤が生じ、それでもなお子どもを救おうとする家族の強い思いが浮かび上がる。
この作品が示すのは、医学的治療だけでは解決しきれない「生活としての病」であり、患者と家族が共に背負う現実である。医療の限界と可能性、その両方を見据えることの重要性を問いかけている。
2024年9月25日


「夫婦」◆いさかいの中で成長
仕事中心の生活や価値観の違いが、夫婦関係にひずみをもたらす現代社会。
映画クレイマー、クレイマーは、家庭を顧みなかった夫と、自立を求めて家を出た妻の姿を通して、家族のあり方を問いかける。
突然、子育てを担うことになった夫は、戸惑いながらも日常の中で父親として成長していく。一方で妻もまた、自分自身を取り戻しながら母としての思いに向き合う。すれ違いと葛藤を経て、互いを理解しようとする過程は、単なる離婚劇にとどまらず、人が関係の中で変わり得ることを示している。
競争社会や核家族化の中で孤立しやすい現代において、夫婦がどのように支え合い、成長していくのかという普遍的なテーマを浮かび上がらせる作品である。
2024年7月24日


ペットの存在が心の支えに
人と人との関係が複雑化し、孤独やストレスを抱えやすい現代において、ペットの存在がこころの支えとなる場面が増えています。言葉を持たない動物との関係は、ときに人間関係以上に深い安心感をもたらします。
本稿では、医療現場の実感や映画作品を手がかりに、ペットロスやアニマルセラピーといった視点から、人と動物の関係がもたらす心理的効果と回復の可能性について考えます。
2024年6月3日


第三十一回 エデンの東(1955年 米国)
家族だからこそ、分かり合えずに傷つけ合ってしまうことがあります。
映画『エデンの東』を手がかりに、本稿では父子や兄弟の葛藤、愛と憎しみが交錯する人間関係、そして赦しによって再び結び直される心の動きを考察します。善悪では割り切れない人の感情に向き合う内容です。
2023年11月23日


第二十回 第三の男(1949年 英国)
正義は常に勝つとは限らず、悪は必ずしも明確な顔をして現れるわけでもない。イソップ寓話「狼と仔羊」が示すように、不条理な力の前では正論すら無力となることがある。
映画『第三の男』は、第二次世界大戦後の混沌としたウィーンを舞台に、友情と裏切り、そして人間の善悪の曖昧さを描き出す名作である。チターの印象的な旋律に彩られた光と影の世界の中で、主人公は真実に近づくほどに苦しい選択を迫られていく。
誰を信じ、何を守るのか――その問いは、時代を超えて私たちの胸に重く響く。
2023年1月10日
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