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院長コラム
—掲載媒体から探す—
院長はこれまで、新聞連載や寄稿記事、専門誌、企業の社内報など、さまざまな媒体で執筆を続けてきました。
映画や文学を題材としたエッセイをはじめ、こころの健康や精神疾患、人間関係、社会問題などについて、それぞれの媒体の読者に向けて発信してきました。時代や読者層が異なっても、人間のこころへの関心は一貫しています。
このページでは、これまでに掲載されたコラムを媒体ごとにまとめています。それぞれの媒体でどのようなテーマが語られてきたのかをたどりながら、お読みいただければ幸いです。


第六十五回 生きる(日本 1952年、UK 2023年)
「人間は何のために生きるのか」――。黒澤明監督、志村喬主演の「生きる」は、死を目前にした一人の公務員が、自らの人生を問い直し、最後に市民のための仕事を成し遂げようとする姿を描いた名作です。30年間無欠勤の市民課長・渡辺勘治は、胃癌を告知され、息子からも冷たくされることで、これまでの人生が無為だったことに気づきます。しかし、若い女性との出会いをきっかけに「生きる」ことの意味を考え始め、下水溜まりを公園に変える仕事に情熱を注ぎます。イソップ寓話「旅人とプラタナス」では、旅人から役立たずと蔑まれた木が、実は人々に大きな恩恵を与えていました。人間もまた、目立たなくても社会を支える仕事をしています。本作は官僚主義を批判すると同時に、働くことの意味、社会に貢献することの尊さ、人生の最後に何を残すのかという普遍的な問いを投げかけます。
9月10日


教師◆教育の持つ重み再認識
マイケル・ホフマン監督の『卒業の朝』(2002年・アメリカ)は、名門高校の歴史教師ハンダートを主人公に、教師の使命と教育の本質を問いかける作品です。日本で世界史の「履修漏れ」が問題となった2006年の記事では、学校教育のあり方を考える作品として取り上げられています。ハンダートは、野心的で自己中心的な生徒ベルの人間性を高めようと情熱を注ぎますが、彼を立ち直らせたいという思いから成績に手心を加え、結果としてカンニングを見逃すことになります。25年後、実業家となったベルから再びコンテストへの招待を受けたハンダートは、彼の変わらぬ自己中心性を目の当たりにし、自らの過去の判断を振り返ります。「知りつつ犯した罪は大きい」「人はいつか鏡に映る自分を直視しなければならない」という言葉は、生徒だけでなく教師自身にも向けられています。教育とは単に知識や技術を教えることではなく、一人の人間の成長を支える営みです。本作は、教育の持つ重みと醍醐味を改めて考えさせる映画です。
8月18日


成長◆音楽教師の人生の喜び
映画『陽のあたる教室』(1995年)は、一人の音楽教師が30年にわたり生徒たちと向き合いながら、自らも成長していく姿を描いた感動作である。作曲家を志して高校教師となったホランドは、当初は教育を生活のための仕事と考えていた。しかし、個性に応じた指導を重ねる中で、生徒たちの才能が開花し、教師としての喜びを見いだしていく。一方で、先天性難聴の息子との葛藤や家族との関係にも向き合い、音楽が人と人を結び付ける力を実感する。退職の日、教え子たちとの再会を通して、自分が残した最大の「作品」が生徒たちの人生そのものであったことに気づく。本作は、教育とは何か、教師の使命とは何かを問いかける名作である。
7月21日


ピアノマニア(2009年 墺太利・独逸)
人はどこまで「完璧」に近づくことができるのか。その問いは芸術の世界において、極限まで鋭く突きつけられる。わずかな音の違いにこだわり、最後の0.1%を追い求める姿勢は、単なる技術の問題ではなく、人間の集中力や感性、そして限界との対話でもある。
ピアノマニアは、調律師と演奏家が一体となって理想の音を追求する過程を描く。バッハの《フーガの技法》という難解な作品に挑む中で、ピアニストの要求に応えるべく、調律師は楽器選びから微細な調整に至るまで試行錯誤を重ねる。その緻密な作業は、常人には知覚できない領域に踏み込むものであり、「完璧」とは何かを問い直す営みでもある。
しかし、どれほど調律が極まっても、演奏の一瞬の乱れで全体は崩れる。そこには、人間が関わる以上避けられない不確実性がある。この構図は、医療や工学の現場にも通じる。精度を高める努力と、人為的ミスという現実。その間で私たちは、完全性への志向と限界の認識を同時に引き受けて生きている。
2025年2月5日


法曹界、中立では済まぬ苦悩
正義と真実を追い求める法曹の仕事は、理知的で冷静な判断が求められる一方で、極めて大きな心理的負担を伴います。複雑な事件に向き合い続ける中で、何が真実かを見極める難しさや、立場の違いによる葛藤にさらされることも少なくありません。
本稿では、映画『ディアボロス』を手がかりに、法曹界におけるストレスや倫理的ジレンマについて考えます。
2025年1月21日


第十二回 モダン・タイムス(1936年)
モダン・タイムス(1936年)は、チャールズ・チャップリンが近代工業社会の矛盾を鋭く風刺した代表作である。機械化された工場で単調な作業に追われる主人公チャーリーは、やがて精神的に追い詰められ、社会の流れからはじき出されていく。
本作は、効率と生産性を最優先する産業社会の中で、人間が「歯車」と化していく現実を描き出す。その一方で、自由を求めることは不安定な生活や貧困と隣り合わせでもあるという、根源的なジレンマを提示している。
古代イソップ寓話にある「自由の道」と「奴隷の道」の比喩が示すように、人間は常に安定と自由の間で揺れ動く存在である。本作は80年以上前の作品でありながら、現代の労働観や生き方にも深い問いを投げかけ続けている。
2022年7月27日


第三回 バックドラフト
「下手な刈り手に苦しめられるくらいなら、いっそ一思いに」というイソップの寓話は、未熟な技術が人に与える苦しみを鋭く突いている。
映画『バックドラフト』は、その対極として、未熟さからプロ意識へと成長する姿を描いた作品だ。舞台はシカゴ。主人公ブライアンは、新米消防士として現場に立ちながら恐怖や劣等感に直面する。英雄的な兄の存在や、父の死の記憶が彼を縛る一方で、火災という極限状況が彼を鍛え上げていく。やがて仲間の死という現実に直面し、彼は「生き残る責任」と職業の意味を自覚する。
音楽を手がけたハンス・ジマーの重厚な旋律が、命を懸ける仕事の重みを一層際立たせている。
2022年4月18日
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