成長◆音楽教師の人生の喜び


中日新聞朝刊 2006.10.13
「陽のあたる教室」(1995年、アメリカ)
「教師の仕事って最高です」と目を輝かせる先生に、しばしば出会います。教育委員会や校長や父兄から、あれこれ注文をつけられ、ストレスもかかるけれど、子どもたちが伸びていく姿を、間近に見られるからです。
「陽のあたる教室」の主役ホランド(リチャード・ドレイファス)は、若き音楽家。交響曲の作曲の時間を確保するために、新設高校の音楽教師になりました。でも、教壇に立ってみると、生徒たちはやる気がなく、オーケストラの演奏もばらばら。最初は腹を立ててばかりいたホランドですが、自分の工夫次第で生徒たちの反応が一変することに気づきます。
懸命にがんばってもクラリネットが上達しない女生徒には、こんな指導―。
「君は自分のどこが一番好きかな」
「髪です。父が、いつも私の髪を夕日のようだと言ってくれるから」
「では、その夕日を心に描いて演奏しよう」
生徒から慕われるようになったホランド先生に、やがて長男が誕生します。コルトレーンにちなんでコールと名付けますが、先天的に耳が不自由な子でした。手話を覚え、コールはさまざまな感情表現ができるようになりますが、仕事に夢中で手話が上達しないホランドとの関係がぎくしゃくします。その危機を乗り越えたのも音楽の力でした。コンサートを企画し、手話でホランドが息子に歌をささげたのです。
ベトナム戦争、ジョン・レノンの暗殺などアメリカの現代史を背景に、一教師の人生が温かく描かれていきます。
六十歳になり、退職を迫られたホランド。引退の日、過去三十年間の教え子たちが講堂に集まります。音楽家としては無名の自分が、かけがいのない作品を世に送り出していたことに初めて気づくのです。
現代日本の多くの教師たちが、ホランド先生のような思いで定年を迎えられるように、と願います。




