top of page

嫉妬◆相手も自分も焼き滅ぼす

  • 18 時間前
  • 読了時間: 2分

中日新聞朝刊 2006.08.25


  自分の得意分野で、自分より若くて、はるかに優秀な人に出会ったら、あなたはどんな感情を抱くでしょうか。


 年齢を気にせず、相手の才能を尊敬し、学ぶ姿勢を持てれば、良好な人間関係を築いていけるでしょう。でも、相手をねたみ始めると、憎しみの感情や復讐(ふくしゅう)心が膨らんでいくものです。 十八世紀後半のオーストリアの天才作曲家モーツァルト。その生涯と謎の死を描いた「アマデウス」(1984年・アメリカ)は、「嫉妬(しっと)」をテーマにした作品です。


 この映画で描かれるモーツァルトは、下品なジョークを言って高笑いにする、礼儀知らずの若者です。でも、才能は飛び抜けていました。宮廷に招かれた際、宮廷音楽家サリエリ(F・マーリー・エイブラハム)が作った曲を一度聴いただけで覚え、アドリブで演奏しながら、変な部分を修正してしまいます。サリエリの面目は丸つぶれです。


 モーツァルトの作品集の楽譜を見たサリエリは、その「神の響き」に、激しいショックを受け、敗北感にうちひしがれます。信心深いサリエリがずっと神に祈り続けても、得られなかった才能でした。


 彼は、神が下品な若者に才能を与えたことを恨み、神と決別します。そしてモーツァルトの音楽をだれよりも愛しつつ、あらゆる策を弄(ろう)して彼の成功を妨害していきます。


 時の皇帝ヨーゼフ2世は、音楽が大好きだけれど、才能のない人でした。取り巻きの音楽家たちのねたみも加わって、モーツァルトの音楽は不当に扱われ、彼は失意の日々を送るようになります。そしてサリエリが仕掛けた罠(わな)にかかり、体力と気力の限界まで曲作りに打ち込む中で、三十五歳の若さで世を去ります。


 サリエリに残されたのは、復讐の快感ではなく、精神病院の片隅で寂しく過ごす後悔の日々でした。


 老いたサリエリの回顧の形でつづられた「アマデウス」は、音楽ファンもミステリーファンも満足できる見事な娯楽作品です。そして「嫉妬の炎は、相手も自分も焼き滅ぼしてしまう」ことも教えています。

​カテゴリー一覧
 

bottom of page