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院長コラム
—掲載媒体から探す—
院長はこれまで、新聞連載や寄稿記事、専門誌、企業の社内報など、さまざまな媒体で執筆を続けてきました。
映画や文学を題材としたエッセイをはじめ、こころの健康や精神疾患、人間関係、社会問題などについて、それぞれの媒体の読者に向けて発信してきました。時代や読者層が異なっても、人間のこころへの関心は一貫しています。
このページでは、これまでに掲載されたコラムを媒体ごとにまとめています。それぞれの媒体でどのようなテーマが語られてきたのかをたどりながら、お読みいただければ幸いです。


仕事と別のよりどころ必要
仕事は人生の大きな柱の一つですが、それだけに依存してしまうと、思いがけない揺らぎに直面することがあります。現代社会では、役割や成果によって自分を評価しがちですが、本来のこころの安定は、より多様な支えの中で保たれるものかもしれません。
本稿では、映画『ファーゴ』を手がかりに、仕事と私生活のバランス、そして「もう一つのよりどころ」を持つことの意味について考えます。
2025年2月6日


最高の人生をあなたと(2011年 仏・白耳義・英吉利)
人生の後半に差しかかるとき、人はこれまで当然のように続いてきた関係や役割をあらためて見直す局面に立たされる。子どもの独立、仕事からの退場、身体機能の変化といった出来事は、静かにしかし確実に「自分は何者か」という問いを突きつけてくる。
映画『最高の人生をあなたと』(2011年)は、長い結婚生活を経た熟年夫婦が、それぞれの内面に生じた空白と向き合う姿を描いている。表面的には安定して見える生活の裏側で、記憶の揺らぎや老いの不安が関係性の歪みとして立ち上がる構造が印象的である。
特にメアリーの「私の人生って何?」という問いは、個人のアイデンティティが家族や配偶関係の中に埋め込まれていたことを浮かび上がらせる。一方でアダムは別の場所で自らの専門性と向き合い、同じ時間を共有しながらも異なる方向へと精神が離れていく。そこにあるのは対立というよりも、人生の局面によってずれていく「関係の再配置」である。
老いとは単なる衰退ではなく、関係性を再定義する時間でもある。この作品は、その再定義がときに痛みを伴いながらも、新たな距離感として再構築されうることを示している。
2025年1月29日


第四十三回 きっとうまくいく (2009年 印度)
イソップ寓話には、自分より秀でた者を侮ると、知らぬ間に更なる困難を招くという教訓が語られています。人の欲望や競争心は、ときに予期せぬ結果を生むものです。
インドの名門工科大学を舞台にした映画『きっとうまくいく』(2009年)は、三人の若者の友情と挑戦を通じて、自由な学びと人生の選択を描いた物語です。トップを目指すランチョーと、劣等感に悩むファルハーンとラージュー。夢や信念に従いながら成長する彼らの姿は、笑いと感動を交えて人生の知恵を浮かび上がらせます。
寓話の教えを手がかりに、この躍動感あふれる映画を振り返ります。
2025年1月9日


オレンジと太陽(英国・豪州 2010年)
歴史の中で語られにくい出来事のひとつに、国家主導の移民政策や家族分断の問題がある。映画オレンジと太陽は、20世紀のイギリスとオーストラリアで実際に行われた児童移民政策を題材に、親から引き離された子どもたちの苦難と、その後の人生を描いた作品である。
社会福祉士マーガレットは、オーストラリアから届いた一人の女性の「母を探してほしい」という訴えをきっかけに、過去に行われた大規模な児童移民の実態を明らかにしていく。調査が進むにつれ、国家や制度の名のもとに多くの子どもたちが家族から切り離されていた事実が浮かび上がる。
ルーツを奪われた人々にとって、「母」とのつながりは単なる家族関係を超え、自己の存在を支える根源的な意味を持つ。失われた記憶と再会への願いは、個人のアイデンティティの回復そのものと重なっていく。
2024年11月24日


第三十八回 偉大なるマルグリット(2015年仏蘭西)マダムフローレンス(2016年英国)
人は自分の声や能力を、必ずしも客観的に把握できるわけではない。特に「音楽」や「表現」の領域では、その自己評価と他者評価の乖離が、しばしば滑稽さや悲劇性を生む。映画偉大なるマルグリットとマダム・フローレンスは、実在の音痴歌手をモデルに、純粋な情熱と周囲の思惑が交錯する人間模様を描いている。
前者では、自身の音痴に気づかぬまま歌う女性が、他者の野心によって舞台へと押し出されていく過程が描かれる。後者では、内縁の夫との強い結びつきの中で、「才能」よりも「信じる力」が前景化されていく。いずれも共通するのは、歌の巧拙ではなく、本人の確信と周囲のまなざしが物語を動かしている点である。
音痴という現象は単なる能力の問題ではなく、知覚・運動・認知のズレとしても捉えられる。そこには人間の自己認識の不確かさと、それでも他者と関わりながら生きる滑稽さと温かさが同居している。
2024年8月4日


心にも傷残す「最古の商い」
人は過去の傷とどう折り合いをつけて生きていくのか。敗戦後の混乱の中で進駐軍相手の売春に身を置き、心に深い傷を負った女性が、自らの現実を「マッカーサーの妻」と語り替える姿は、人が生き延びるために物語を必要とすることを示している。売春は「最古の商い」と呼ばれ、時代が変わっても偏見や葛藤は消えない。映画『モル・フランダース』は、過酷な境遇の中で売春婦として生きざるを得なかった女性が、自らの人生を娘に語り直す物語である。そこには「体は売っても心までは」という切実な願いと、尊厳を守ろうとする強い意志がある。過去をどう受け止め、意味づけるか――本作は人間の再生と自己肯定の可能性を問いかける。
2024年1月11日


第二十九回 恋の闇 愛の光(1995年 米国)
映画『恋の闇 愛の光』(原題:Restoration)は、享楽に生きていた一人の医師が、苦難と喪失を経て本来の使命に目覚めていく姿を描いた歴史ドラマである。17世紀イングランド、王の寵愛を受けたメリヴェルは地位と快楽に溺れるが、やがてすべてを失い、精神病院での経験や愛する人の死を通して人間としての在り方を問い直すことになる。黒死病の流行という極限状況の中で、彼は医師としての使命に目覚め、人を救う道を選び取る。
本作は、外的な成功や快楽ではなく、自らの「原点」に立ち返ることこそが人間の再生につながることを示している。失うことを通してしか見えない本質があることを、語りかける作品である。
2023年9月27日


第二十六回 チャンス (1979年 米国)
人はしばしば、自分に与えられているものに気づかず、外にある何かを求めてしまいます。イソップ寓話「ゼウスと動物と人間」は、人間がすでに理性という大きな力を授かっていることを教えています。本稿では、チャンスを手がかりに、無垢な一人の男が偶然と誤解によって社会の頂点へと押し上げられていく過程を描きながら、人間の価値とは何か、そして私たちが見落としがちな「機会」の本質について考えます。
2023年6月29日
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