ふるさと◆身近な美しさを再発見
- かゆかわクリニック院長 粥川裕平

- 6 時間前
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中日新聞朝刊 2006.09.29
身近すぎるために、魅力に気づかないことが、人生ではよくあります。生まれ育ったふるさとの魅力も、成長するにつれて見えてくるものです。
イタリアの小さな島を舞台にした「イル・ポスティーノ」(1994年)は、島の素朴な青年が異邦人との出会いの中でふるさとを愛する心を育てていくさまを描いた美しい映画です。
1950年代のチリからイタリアに政治亡命してきた詩人パブロ・ネルーダは、ナポリ沖の小さな島に居を構えます。その島の青年マリオは、漁師の父の後を接ぐ気にはならず、自分探しを続けていました。マリオは、郵便配達の仕事に就き、パブロの家に郵便を届けるうちに、年の差を超えた友情が芽生え、マリアは次第に詩の世界にひかれていきます。
島の自然の中に身を置き、わき出てくるイメージを言葉にしていく中で、島の美しさを再認識していきます。そして、食堂に働く女性に一目ぼれし、パブロの応援を得て情熱的な詩をささげ、恋を実らせます。
しかし、チリの政治状況が変わって、パブロは故国に戻り、マリオのことなど忘れてしまったかのように、手紙も来ません。「もうお前のことなんか、覚えていないよ」と冷ややかな周囲の声をよそに、マリオはパブロのために、島の「美しい音」を録音機で集めます。
さざ波、風の音、漁師の網ひきの音…。マリオにとって「ふるさと再発見」の体験でした。
数年後、パブロが島を訪ねてきた時、マリオは既に世を去っていました。島の暮らしを良くするために政治活動を参加し、集会の混乱に巻き込まれて命を落としたのです。
マリオ役の喜劇俳優マッシモ・トロイージは、心臓の難病に侵されながらもこの映画を完成させ、間もなく亡くなりました。実在の詩人ネルーダを演じた名優フィリップ・ノワレは、撮影中ずっとマッシモを気遣い、励まし続けたそうです。そんなエピソードが、映画の二人の名演技と重なります。




