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院長コラム
—掲載媒体から探す—
院長はこれまで、新聞連載や寄稿記事、専門誌、企業の社内報など、さまざまな媒体で執筆を続けてきました。
映画や文学を題材としたエッセイをはじめ、こころの健康や精神疾患、人間関係、社会問題などについて、それぞれの媒体の読者に向けて発信してきました。時代や読者層が異なっても、人間のこころへの関心は一貫しています。
このページでは、これまでに掲載されたコラムを媒体ごとにまとめています。それぞれの媒体でどのようなテーマが語られてきたのかをたどりながら、お読みいただければ幸いです。


第四十二回 80デイズ(2004年 米国)
人はしばしば理想や夢を語るが、それを現実のものにするには行動が不可欠である。
八十日間世界一周を原作とする映画80デイズは、突飛とも思える挑戦を実行に移すことで道を切り開いていく姿を描く。発明家フォッグと、中国人ラウの旅は、単なる冒険譚にとどまらず、それぞれが抱える目的や信念を実現していく過程でもある。
旅の中では幾度も困難や妨害に直面するが、機転や協力によって乗り越えていく。その積み重ねが、最終的には「証明」として結実する。これはイソップ寓話の「言葉ではなく事実で示せ」という教訓にも通じる。
現代では移動手段の発達により世界は身近になったが、本質的な意味での「旅」は変わらない。未知に踏み出し、自らの力で確かめる経験こそが、人を成長させる。人生そのものが一つの旅であるとすれば、求められるのは語ること以上に、実際に一歩を踏み出す勇気である。
2024年12月6日


障害◆周囲の視線に負けない
映画『ギルバート・グレイプ』は、知的障害のある弟とその家族を支える兄の姿を通して、社会の中で生きることの意味を問いかける作品である。小さな町で暮らす一家は、周囲の視線や偏見にさらされながらも、互いを支え合い懸命に日々を生きている。特に印象的なのは、障害のある息子を守る母親の姿だ。世間の冷たい目に臆することなく、堂々と子を迎えに行くその姿には、家族の強さと深い愛情が表れている。本作は、障害を持つ人々の感性の鋭さや人間理解の深さを描くと同時に、支える家族の苦悩と誇りを映し出す。周囲の評価に縛られず生きることの大切さを、力強く伝える作品である。
2024年12月2日


認知症◆それでも愛されるか
映画『きみに読む物語』(原題:The Notebook)は、認知症という過酷な現実の中で、それでもなお消えない愛のかたちを描いた感動作である。
物語は、記憶を失った妻に対して、夫がかつての恋の記憶を語り続ける場面から始まる。若き日の二人は身分違いの恋に引き裂かれながらも、強い思いで結ばれていく。しかし時を経て、妻はアルツハイマー病により記憶を失ってしまう。夫は日々、過去の物語を読み聞かせることで、失われた絆をつなぎ止めようとする。
本作は、記憶という不確かなものに対して、愛という確かなものがどこまで寄り添えるのかを問いかける。老いと病を超えてなお人を支える感情の深さを、力強く描き出している。
2024年11月29日


最近のアスペルガー流行りについて
近年、「アスペルガー症候群ではないか」という言葉が、専門的な診断を経ずに日常的なレッテルとして使われる場面が増えている。こうした“アスペルガー流行り”ともいえる風潮に対し、慎重な視点の重要性を指摘する。
発達障害支援法の施行以降、社会的認知は大きく進んだ一方で、個性や対人関係の不器用さまでを安易に障害名で説明してしまう傾向も広がった。その結果、診断名が本来の意味を離れ、ラベリングとして独り歩きする危うさが生じている。
重要なのは「当てはまるかどうか」という分類ではなく、「その人がどのような困難を抱え、どのような支援があれば生きやすくなるのか」という実践的視点である。発達障害をめぐる議論は、診断の是非を超えて、社会の支援のあり方そのものを問い直している。
2024年11月28日


こころの病、まず相談の決断
人生における出来事は、身体だけでなく心にも大きな影響を及ぼす。とりわけ普通の人々は、家族の喪失と葛藤を通して、心の病と向き合う過程を丁寧に描いた作品である。長男の死をきっかけに崩れていく家族関係の中で、次男は抑うつや自殺未遂といった危機に直面しながらも、支えを得て再生への道を歩んでいく。
こうした心の不調は、誰にでも起こり得るものであるにもかかわらず、実際に専門家へ相談するまでには長い時間を要することが多い。祈祷や民間療法に頼り続けた末にようやく医療機関へたどり着く例もあり、心の問題に対する社会的理解は必ずしも十分とはいえない。
精神的な不調は特別な人だけの問題ではなく、生活や人間関係の中で誰もが直面し得る現実である。そのため、早い段階で相談につながることの重要性が改めて問われている。
2024年11月27日


だんらんにっぽん -愛知・南医療生協の奇跡-(日本・2011)
医療は専門家だけが担うものではなく、地域に暮らす人々の関わりの中で支えられていく側面を持つ。伊勢湾台風を契機に誕生した南医療生協は、まさにその象徴的な存在である。大規模災害後の混乱の中で、住民と医療者が手を取り合い、診療所から病院へと発展してきた歩みは、単なる医療機関の成長ではなく、地域そのものの再生の歴史でもあった。映画だんらんにっぽん -愛知・南医療生協の奇跡-は、その過程を支えた無名の組合員たちに光を当てる。そこに描かれるのは、効率や市場原理では測れない、人と人とのつながりから生まれる医療のかたちである。受け身の「患者」から主体的な「担い手」へ――住民参加型医療の可能性を問いかける作品である。
2024年11月26日


オレンジと太陽(英国・豪州 2010年)
歴史の中で語られにくい出来事のひとつに、国家主導の移民政策や家族分断の問題がある。映画オレンジと太陽は、20世紀のイギリスとオーストラリアで実際に行われた児童移民政策を題材に、親から引き離された子どもたちの苦難と、その後の人生を描いた作品である。
社会福祉士マーガレットは、オーストラリアから届いた一人の女性の「母を探してほしい」という訴えをきっかけに、過去に行われた大規模な児童移民の実態を明らかにしていく。調査が進むにつれ、国家や制度の名のもとに多くの子どもたちが家族から切り離されていた事実が浮かび上がる。
ルーツを奪われた人々にとって、「母」とのつながりは単なる家族関係を超え、自己の存在を支える根源的な意味を持つ。失われた記憶と再会への願いは、個人のアイデンティティの回復そのものと重なっていく。
2024年11月24日


ネルソン・マンデラの死を悼む
南アフリカのアパルトヘイト体制を終わらせた政治指導者 ネルソン・マンデラ は、27年に及ぶ投獄を経て解放され、その後初の黒人大統領となった。その歩みは単なる政治的勝利ではなく、報復ではなく「赦し」と「和解」を選んだ希有な実践として世界に記憶されている。
彼の人生は複数の映画作品でも描かれている。看守との関係性の変化を通して人間理解の深まりを描いた『マンデラの名もなき看守』(原題邦訳作品)、そしてラグビーを通じて国家統合を目指す姿を描いた インビクタス/負けざる者たち などである。さらに『マンデラ 自由への長い道』もまた、個人史と国家史が交差する生涯を映像化している。
対立を乗り越え、分断された社会を統合へ導く思想は、単なる理想ではなく現実政治の中で試された。その姿は、暴力の連鎖を断ち切ることがいかに困難で、同時にいかに必要であるかを示している。
2024年11月22日
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