ビューティフル・マインド(2001年 米国)

愛知保険医新聞刊 2002/06
アカデミー賞主要4部門受賞
近々「統合失調症」と病名変更が予定されている精神分裂を描いた映画作品が少ない理由は、分裂病を体験した著名人が少ないためかもしれない。リンカーン大統領夫人、天才バレリーナのニジンスキー、そしてオスカー作品「シャイン」のモデルになったデービッド・ヘルフゴットくらいだろうか。
オスカー主演男優に輝いたラッセル・クロウ演する「ビューティフル・マインド」は、ノーベル経済学賞を受賞した天才数学者ジョン・ナッシュの物語だ。外界の事象をなんでも数学的に解題しようとする孤独な青年は、プライドは人一だが、世渡り下手で、女性を口説く術をまったく知らない。初対面の女性に単刀直入に迫ってしまうあたりは、軽薄な軟派青年への警鐘にもなっているが、高機能自閉症ともいえるこの天才数学者の対人関係能力の一面を示したものともいえる。
第二次大戦でアメリカが勝利し、米ソの冷戦が始まった頃、天才数学者達が、国防情報戦に利用される。プリンストンからMITへ、ナッシュは抜擢され秘蜜任務につく。そのあたりから、妄想が根を生やしはじめ、現実との識別を困難にさせるまでになって、大学での講義や、赤ちゃんの世話もまともに出来なくなってしまう。思いあまった妻は、精神科医に連絡し、 強制入院に踏み切るが、クロルプロマジンが導入されたばかりの時期で、パーキンソン症状、肥満、陰萎などの副作用は、良く描かれていた。インスリンショック療法の場面も出てくるが、電気けいれん療法と混同しているのではないかと気になる描写もあった。
ストーリーは、拒薬、再発を繰り返しながら、教育も知的生産も出来なくても古巣のプリンストンで生活を保障され居場所を与えられ続けたナッシュが、妻の辛抱強い愛に支えられ半世紀近い時間を経て、ノーベル賞授賞式に登壇するという結末なのだ。
人生の大半を闘病生活に費やしても、いつか輝くときが来る、というメッセージを観客に送った作品である。
エド・ハリスや妻役のジェニファー・コネリー の演技も光っていた。ラッセル・クロウの好演にもかかわらず、評価は「シャイン」には遠く及ばない。闘病生活の末に、世界的ピアニストとして新生したヘルフゴットとは違って、ナッシュのノーベル賞は、発病前の二十一歳の時の仕事だから。分裂病を経験した人でもノーベル賞授賞式に出席を許されたという点で、若干の評価に値する作品であった。
難病を抱えた有名人の物語は、同じ難病で苦しむ無名の多くの人々に希望と勇気を与えるものである。そうした作品を作るとオスカーが取れるというハリウッドのねらいがあったのでは、といった朝日の天声人語は、今日のジャーナリストの水準を如実に物語っていた。そういう点では話題性のある作品であった。





