希望◆ホームレスの2人の夢


中日新聞朝刊 2006.12.22
「聖者の眠る街」(1993年、アメリカ)
少年が集団でホームレスの人たちを殺傷した事件に、世間は驚いています。今週紹介する「聖者の眠る街」は、人間の尊厳とホームレスの友情を描いた作品です。
黒人のジェリー(ダニー・グローバー)はベトナムの帰還兵です。商売に失敗し、家族とも別れ、戦争の古傷で痛む足を抱え、ニューヨークで渋滞時に車の窓ガラスを磨いて、チップを稼ぐ路上生活者です。
そんな彼がホームレスの宿泊施設で、白人の若者マシュー(マット・ディロン)と仲よくなります。写真家志望の学生だったマシューは、統合失調症を病み、親からも捨てられた身でした。まともに写真を撮れなくなり、心に留まる光景があると、フィルムの入っていないカメラを構えシャッターを切るのです。孤独な彼に、ジェリーは父性愛のような感情を覚えます。
暴力が絶えない宿泊施設でマシューの折れそうな心を支え、かばっているうち、二人は一緒に車磨きに励むようになります。お金をためてアパートに住み、商売を始めようと夢を語り合います。
ところが、不良黒人とのトラブルで、二人は宿泊施設にいられなくなりました。街を転々とする中で奇跡が起こります。マシューが手でさすると、ジェリーの足の痛みがうそのように消え、靴磨きの老人の痛む手も全快したのです。 「お前はホームレスを守護する聖者だ」と、ジェリーは感謝を込めて”洗礼”の儀式をします。その翌朝から、マシューはホームレスの人たちの美しさを写真に撮り始めるのです。
仲間に支えられ、将来への希望を取り戻していくマシュー。でも、ホームレスを巨大宿泊施設に強制収容しようとする政策が災いし、悲劇の結末が待っていました。残されたジェリーは、”聖者”の思い出を胸に、懸命に生きていくことを誓うのです。
「どんな状況にあっても、人は希望と自由と尊厳をなくさない限り、美しい存在なのだ」というメッセージ。悲しいけれども心にしみる作品でした。




