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院長コラム
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院長はこれまで、新聞連載や寄稿記事、専門誌、企業の社内報など、さまざまな媒体で執筆を続けてきました。
映画や文学を題材としたエッセイをはじめ、こころの健康や精神疾患、人間関係、社会問題などについて、それぞれの媒体の読者に向けて発信してきました。時代や読者層が異なっても、人間のこころへの関心は一貫しています。
このページでは、これまでに掲載されたコラムを媒体ごとにまとめています。それぞれの媒体でどのようなテーマが語られてきたのかをたどりながら、お読みいただければ幸いです。


第二十一回 大逆転(1983年 米国)
イソップ寓話「石を曳き上げた漁師」が示すように、喜びと悲しみは表裏一体であり、人は状況の変化に翻弄される存在でもある。映画『大逆転』は、富と貧困という対極に置かれた二人の男の立場が入れ替わることで、人間の本質と社会の構造を浮き彫りにする。環境が人を形作るのか、それとも個人の資質がすべてなのか。軽妙なコメディの裏に潜む鋭い問いが、観る者に人生の不確かさと可能性を静かに突きつけてくる。
2023年1月30日


第十五回 タイタニック(1997年 米国)
人生はしばしば航海に喩えられる。順風満帆に見える旅路であっても、ひとたび嵐に遭遇すれば、その行方は容易に揺らぐ。古代の寓話が示すように、人は危機を脱した後ほど油断しやすく、本当の意味での備えや慎重さは試練の最中だけでなく、その後にも求められる。
映画『タイタニック』は、豪華客船の沈没という歴史的悲劇を背景に、身分や階層の違いが生死を分ける現実を描き出した作品である。ジャックとローズの恋愛は象徴的でありながら、その背後には、同じ船に乗りながらも決して交わることのない社会構造が横たわっている。
現実の災害においても、命が助かった後に待ち受けるのは、必ずしも安堵ではない。生活基盤の喪失や将来への不安は、長く心に影を落とす。生き延びることと、生き続けられることは同義ではないのである。だからこそ、危機を免れた後も含めて、人間はどのように生を支えていくのかを考え続けなければならない。
2022年9月27日


第十二回 モダン・タイムス(1936年)
モダン・タイムス(1936年)は、チャールズ・チャップリンが近代工業社会の矛盾を鋭く風刺した代表作である。機械化された工場で単調な作業に追われる主人公チャーリーは、やがて精神的に追い詰められ、社会の流れからはじき出されていく。
本作は、効率と生産性を最優先する産業社会の中で、人間が「歯車」と化していく現実を描き出す。その一方で、自由を求めることは不安定な生活や貧困と隣り合わせでもあるという、根源的なジレンマを提示している。
古代イソップ寓話にある「自由の道」と「奴隷の道」の比喩が示すように、人間は常に安定と自由の間で揺れ動く存在である。本作は80年以上前の作品でありながら、現代の労働観や生き方にも深い問いを投げかけ続けている。
2022年7月27日


第五回 農夫と息子たち
映画『遥かなる大地へ』は、新天地アメリカを目指した若者たちの夢と挫折、そして再起を描いた壮大な人間ドラマである。十九世紀末のアイルランドで貧しい小作農として生きていた主人公ジョセフは、父の死と家の焼失をきっかけに運命を変えるため新大陸へと渡る。道中で出会ったシャノンとともに数々の困難に直面しながらも、彼らは決して希望を失わない。
すべてを失い、どん底を味わいながらも、自らの力で道を切り拓こうとする姿は、イソップ寓話「農夫と息子たち」が示す“努力こそ宝”という教訓と重なる。
本作は、苦労の積み重ねがやがて実を結ぶこと、そして夢を追い続ける意志の尊さを力強く描いている。
2022年5月9日


第四回 ジャイアンツ
映画『ジャイアンツ』は、テキサスの広大な牧場を舞台に、富と権力、そして家族の変遷を描いた壮大な人間ドラマである。エリザベス・テイラー演じるレスリイは東部から嫁ぎ、価値観の違いに戸惑いながらも新たな家庭を築いていく。一方、貧しい青年ジェットは石油の発見によって一躍成功者となり、ジェームズ・ディーンが演じるその姿は、野心と孤独を象徴している。時代の進展とともに、牧場主としての誇りに生きるビックと、変化を受け入れる次世代との間には溝が生まれる。富や成功に支えられた栄華は決して永続せず、人種問題や価値観の対立が人間関係を揺さぶる。
本作は、誇りと傲慢、そして時代の流れに翻弄される人間の姿を重厚に描き出している。
2022年4月25日


第二回 亀と兎
イソップ寓話『亀と兎』は、才能に慢心する者と、努力を積み重ねる者の対比を通して、継続の力の重要性を教えてくれる。発明王のトーマス・エジソンも「天才は1%のひらめきと99%の努力」と語ったように、才能だけでは成果は保証されない。
映画『クール・ランニング』は、この寓話を現代的に体現した作品だ。舞台は常夏の国ジャマイカ。氷上競技とは無縁の若者たちが、ボブスレーという未知の世界に挑戦する。経験も環境も不足する中で、彼らは失敗を重ねながらも努力を続け、自分たちのスタイルを築いていく。結果以上に彼らが手にしたのは「誇り」と仲間との絆だった。才能か努力かという単純な二択ではなく、自分を信じてやり抜く姿勢こそが人を成長させる――そんな普遍的なメッセージが胸に残る。
2022年4月11日


第一回 黄昏
イソップ寓話『胃袋と足』は、互いに優劣を競うのではなく、支え合うことで成り立つ関係の本質を説いている。胃袋が栄養を送り、足が体を運ぶように、社会のあらゆる役割は相補的に機能している。この視点は、職場の上下関係や組織間の力学を考えるうえでも示唆に富む。やがて人は歳を重ね、仕事人生の終着点を迎える。そのときに訪れるのが「黄昏」の時間だ。
映画の世界では、ドライビング Miss デイジーや野いちごが老境の心理を繊細に描き出している。また、中年期の葛藤と責任を描いたたそがれ清兵衛や、過去と向き合う人生を描く許されざる者は、働き続けてきた人々の内面を浮かび上がらせる。人生の各段階で問われるのは、競争ではなく「どう支え、どう生きるか」という姿勢なのかもしれない。
2022年3月31日


旅人は夢を奏でる(フィンランド 2012年)
人は過去から逃れ続けることはできない。映画『旅人は夢を奏でる』(2012年 フィンランド)は、長年家族を捨てて生きてきた父親が、人生の終盤に差しかかり、再び家族と向き合おうとする旅を描いた静かなロードムービーである。突然現れた父と息子のぎこちない再会は、やがて失われた時間を埋めるように、家族それぞれの関係を結び直していく。病や老いを抱えた身体、言葉にならない後悔、そして不器用な愛情――それらが交錯する中で、人はどのようにして赦しへと至るのかが問われる。華やかさはないが、人生の終章における「やり直し」の可能性を静かに照らし出す作品である。
2018年3月29日
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