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院長コラム
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院長はこれまで、新聞連載や寄稿記事、専門誌、企業の社内報など、さまざまな媒体で執筆を続けてきました。
映画や文学を題材としたエッセイをはじめ、こころの健康や精神疾患、人間関係、社会問題などについて、それぞれの媒体の読者に向けて発信してきました。時代や読者層が異なっても、人間のこころへの関心は一貫しています。
このページでは、これまでに掲載されたコラムを媒体ごとにまとめています。それぞれの媒体でどのようなテーマが語られてきたのかをたどりながら、お読みいただければ幸いです。


第五回 農夫と息子たち
映画『遥かなる大地へ』は、新天地アメリカを目指した若者たちの夢と挫折、そして再起を描いた壮大な人間ドラマである。十九世紀末のアイルランドで貧しい小作農として生きていた主人公ジョセフは、父の死と家の焼失をきっかけに運命を変えるため新大陸へと渡る。道中で出会ったシャノンとともに数々の困難に直面しながらも、彼らは決して希望を失わない。
すべてを失い、どん底を味わいながらも、自らの力で道を切り拓こうとする姿は、イソップ寓話「農夫と息子たち」が示す“努力こそ宝”という教訓と重なる。
本作は、苦労の積み重ねがやがて実を結ぶこと、そして夢を追い続ける意志の尊さを力強く描いている。
2022年5月9日


第四回 ジャイアンツ
映画『ジャイアンツ』は、テキサスの広大な牧場を舞台に、富と権力、そして家族の変遷を描いた壮大な人間ドラマである。エリザベス・テイラー演じるレスリイは東部から嫁ぎ、価値観の違いに戸惑いながらも新たな家庭を築いていく。一方、貧しい青年ジェットは石油の発見によって一躍成功者となり、ジェームズ・ディーンが演じるその姿は、野心と孤独を象徴している。時代の進展とともに、牧場主としての誇りに生きるビックと、変化を受け入れる次世代との間には溝が生まれる。富や成功に支えられた栄華は決して永続せず、人種問題や価値観の対立が人間関係を揺さぶる。
本作は、誇りと傲慢、そして時代の流れに翻弄される人間の姿を重厚に描き出している。
2022年4月25日


第二回 亀と兎
イソップ寓話『亀と兎』は、才能に慢心する者と、努力を積み重ねる者の対比を通して、継続の力の重要性を教えてくれる。発明王のトーマス・エジソンも「天才は1%のひらめきと99%の努力」と語ったように、才能だけでは成果は保証されない。
映画『クール・ランニング』は、この寓話を現代的に体現した作品だ。舞台は常夏の国ジャマイカ。氷上競技とは無縁の若者たちが、ボブスレーという未知の世界に挑戦する。経験も環境も不足する中で、彼らは失敗を重ねながらも努力を続け、自分たちのスタイルを築いていく。結果以上に彼らが手にしたのは「誇り」と仲間との絆だった。才能か努力かという単純な二択ではなく、自分を信じてやり抜く姿勢こそが人を成長させる――そんな普遍的なメッセージが胸に残る。
2022年4月11日


第一回 黄昏
イソップ寓話『胃袋と足』は、互いに優劣を競うのではなく、支え合うことで成り立つ関係の本質を説いている。胃袋が栄養を送り、足が体を運ぶように、社会のあらゆる役割は相補的に機能している。この視点は、職場の上下関係や組織間の力学を考えるうえでも示唆に富む。やがて人は歳を重ね、仕事人生の終着点を迎える。そのときに訪れるのが「黄昏」の時間だ。
映画の世界では、ドライビング Miss デイジーや野いちごが老境の心理を繊細に描き出している。また、中年期の葛藤と責任を描いたたそがれ清兵衛や、過去と向き合う人生を描く許されざる者は、働き続けてきた人々の内面を浮かび上がらせる。人生の各段階で問われるのは、競争ではなく「どう支え、どう生きるか」という姿勢なのかもしれない。
2022年3月31日


旅人は夢を奏でる(フィンランド 2012年)
人は過去から逃れ続けることはできない。映画『旅人は夢を奏でる』(2012年 フィンランド)は、長年家族を捨てて生きてきた父親が、人生の終盤に差しかかり、再び家族と向き合おうとする旅を描いた静かなロードムービーである。突然現れた父と息子のぎこちない再会は、やがて失われた時間を埋めるように、家族それぞれの関係を結び直していく。病や老いを抱えた身体、言葉にならない後悔、そして不器用な愛情――それらが交錯する中で、人はどのようにして赦しへと至るのかが問われる。華やかさはないが、人生の終章における「やり直し」の可能性を静かに照らし出す作品である。
2018年3月29日


クロワッサンで朝食を(仏蘭西・エストニア・白耳義 2012年)
老いとは単なる衰退ではなく、関係性の再編を迫られる時間でもある。人は年齢を重ねるほど、身体的な自由を失う一方で、他者との距離感や依存の形を見直さざるを得なくなる。映画『クロワッサンで朝食を』(2012年)は、エストニアからパリへ渡った女性と、孤独な老婦人との出会いを通して、「ケアする者」と「ケアされる者」という単純な役割を揺さぶる物語である。
そこでは、親の死を経て空洞化した人生に再び意味を見出そうとする移民女性と、孤高を装いながらも他者を拒みきれない老婦人が、衝突と摩擦を繰り返しながら関係を築いていく。クロワッサンという日常的な食べ物は、単なる嗜好品ではなく、文化・階級・孤独・記憶の象徴として機能する。人は他者なしには生きられないが、同時に他者を受け入れることにも痛みが伴う。その矛盾の中で、わずかな共感が関係の回復を可能にする過程が描かれている。
2018年2月24日


『きっと、うまくいく』 (インド 2009年)
インド映画『きっと、うまくいく』(2009年)は、エリート工科大学を舞台に、若者たちの進路と人生観を鮮やかに描き出す。原題「3 idiots」が示す通り、型破りな三人の学生は、社会や家族の期待に縛られながらも、自らの生き方を模索していく。写真家を志しながら父に技術者を強いられるフィルハーン、家族の期待を背負うラージュー、そして自由な発想で周囲を変えていく天才ランチョー。彼らの姿は、競争や学歴偏重に傾きがちな社会への問いかけでもある。成功とは肩書や地位なのか、それとも自分らしく生きることなのか。本作は「なせばなる」という前向きな精神とともに、真の人生選択のあり方を観る者に静かに問いかける。
2009年5月18日
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