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院長コラム
—掲載媒体から探す—
院長はこれまで、新聞連載や寄稿記事、専門誌、企業の社内報など、さまざまな媒体で執筆を続けてきました。
映画や文学を題材としたエッセイをはじめ、こころの健康や精神疾患、人間関係、社会問題などについて、それぞれの媒体の読者に向けて発信してきました。時代や読者層が異なっても、人間のこころへの関心は一貫しています。
このページでは、これまでに掲載されたコラムを媒体ごとにまとめています。それぞれの媒体でどのようなテーマが語られてきたのかをたどりながら、お読みいただければ幸いです。


第四十三回 きっとうまくいく (2009年 印度)
イソップ寓話には、自分より秀でた者を侮ると、知らぬ間に更なる困難を招くという教訓が語られています。人の欲望や競争心は、ときに予期せぬ結果を生むものです。
インドの名門工科大学を舞台にした映画『きっとうまくいく』(2009年)は、三人の若者の友情と挑戦を通じて、自由な学びと人生の選択を描いた物語です。トップを目指すランチョーと、劣等感に悩むファルハーンとラージュー。夢や信念に従いながら成長する彼らの姿は、笑いと感動を交えて人生の知恵を浮かび上がらせます。
寓話の教えを手がかりに、この躍動感あふれる映画を振り返ります。
2025年1月9日


第四十二回 80デイズ(2004年 米国)
人はしばしば理想や夢を語るが、それを現実のものにするには行動が不可欠である。
八十日間世界一周を原作とする映画80デイズは、突飛とも思える挑戦を実行に移すことで道を切り開いていく姿を描く。発明家フォッグと、中国人ラウの旅は、単なる冒険譚にとどまらず、それぞれが抱える目的や信念を実現していく過程でもある。
旅の中では幾度も困難や妨害に直面するが、機転や協力によって乗り越えていく。その積み重ねが、最終的には「証明」として結実する。これはイソップ寓話の「言葉ではなく事実で示せ」という教訓にも通じる。
現代では移動手段の発達により世界は身近になったが、本質的な意味での「旅」は変わらない。未知に踏み出し、自らの力で確かめる経験こそが、人を成長させる。人生そのものが一つの旅であるとすれば、求められるのは語ること以上に、実際に一歩を踏み出す勇気である。
2024年12月6日


第四十一回 LIFE!(2013年 米国)
人生は時に単調に見えても、その内側には豊かな想像と感情の世界が広がっている。LIFE!は、雑誌「LIFE」の写真管理部門で働く冴えない中年男性ウォルターが、失われたネガを探す旅に出る物語である。彼は空想の世界に逃避しながらも、現実の旅を通して少しずつ行動する勇気を取り戻していく。
北極圏からヒマラヤへと続く旅は、単なる冒険ではなく、自己変容の過程でもある。失敗や誤解、喪失を経て、ウォルターは他者との関係性や自分自身の価値を再発見していく。その過程で描かれるのは、派手な成功ではなく、静かな自己回復である。
人生(LIFE)は生命であり、生活であり、物語でもある。空想に閉じこもることと現実を生きることの間で揺れながら、人は少しずつ自分の「生」を形づくっていく。そこにこそ、この作品の静かな力がある。
2024年11月21日


第四十回 悪魔の美しさ(1948年仏蘭西)
人間は若さや欲望に強く惹かれる一方で、老いという避けがたい現実と向き合わなければならない存在である。映画悪魔の美しさは、ファウスト伝説をもとに、若さ・富・愛と引き換えに魂を差し出す人間の姿を描いた作品である。
物語では、老いた大学教授ファウストが悪魔メフィストの誘惑により若返り、青年アンリとして新たな人生を得る。しかし、その代償として魂の契約が彼を支配し、富や力を得ながらも次第に自由を失っていく。ジプシーの娘との愛を軸に、欲望と救済のはざまで揺れる人間の姿が描かれる。
この寓話は、若さへの執着や老いへの恐れだけでなく、人間が人生の各段階でどのように性格や価値観を変化させていくのかを象徴的に示している。老いは単なる衰退ではなく、欲望と経験が形を変える過程でもある。
2024年10月2日


第三十九回 オスカーとルシンダ(1997年 米国)・のるかそるか(1989年 米国)
一獲千金の夢を抱かせるギャンブルは、人間の欲望と深く結びついた行為である。今回取り上げるのは、オスカーとルシンダとのるかそるかという対照的な二作品だ。前者は信仰と愛を賭けた壮大な物語の中で、賭博の危うさと人間の執着を描き、後者は競馬に魅せられた男の姿を通して、滑稽さと人間らしさを浮き彫りにする。
賭けに勝てばさらなる欲望が生まれ、負ければ取り返そうとする。この連鎖こそがギャンブルの本質であり、一度のめり込めば抜け出すことは容易ではない。現代ではカジノ構想なども議論されているが、その是非を考えるうえでも、これらの作品は重要な示唆を与えてくれる。娯楽としての魅力と社会的リスク、その両面を見つめる視点が求められている。
2024年9月9日


第三十八回 偉大なるマルグリット(2015年仏蘭西)マダムフローレンス(2016年英国)
人は自分の声や能力を、必ずしも客観的に把握できるわけではない。特に「音楽」や「表現」の領域では、その自己評価と他者評価の乖離が、しばしば滑稽さや悲劇性を生む。映画偉大なるマルグリットとマダム・フローレンスは、実在の音痴歌手をモデルに、純粋な情熱と周囲の思惑が交錯する人間模様を描いている。
前者では、自身の音痴に気づかぬまま歌う女性が、他者の野心によって舞台へと押し出されていく過程が描かれる。後者では、内縁の夫との強い結びつきの中で、「才能」よりも「信じる力」が前景化されていく。いずれも共通するのは、歌の巧拙ではなく、本人の確信と周囲のまなざしが物語を動かしている点である。
音痴という現象は単なる能力の問題ではなく、知覚・運動・認知のズレとしても捉えられる。そこには人間の自己認識の不確かさと、それでも他者と関わりながら生きる滑稽さと温かさが同居している。
2024年8月4日


第三十七回 サンキュー・スモーキング(2005年 米国)
禁煙が常識となりつつある現代において、煙草をめぐる議論は健康問題だけでなく、情報と価値観の問題へと広がっている。映画 サンキュー・スモーキング は、煙草業界のロビイストを主人公に据え、「正しさ」と「説得」のズレを鋭く描き出す作品だ。
主人公ニックは、煙草の有害性を否定するのではなく、論点を巧みにずらし、聴衆を納得させていく。その姿は、現代社会における情報操作の本質を象徴している。問題は真実そのものではなく、「どう語られるか」によって受け手の認識が左右される点にある。
また本作は、喫煙をめぐる是非を超え、「個人の自由」と「社会的責任」という普遍的なテーマを提示する。自己決定が尊重される一方で、その選択が他者や社会に与える影響も無視できない。情報があふれる時代だからこそ、何を信じ、どう判断するかが問われている。
2024年6月19日


第三十六回 イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密(2014年 米国)
第二次世界大戦下、英国はドイツ軍の暗号「エニグマ」の解読という極秘任務に挑んでいた。
映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』は、その中心人物であるアラン・チューリングの実像に迫る作品である。彼は類まれな才能を持ちながらも、協調性に乏しく孤立しがちだった。しかし仲間との関係を築く中で、機械による暗号解読という革新的発想を実現し、戦局を左右する成果を上げる。だがその功績は国家機密として隠され、戦後も正当に評価されることはなかった。さらに彼は同性愛という当時の社会規範により迫害を受ける。天才であるがゆえの孤独、国家と個人の関係、そして科学技術の光と影。本作は、戦争が生み出す矛盾と、人間の尊厳について深く問いかける。
2024年5月15日
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