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院長コラム
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院長はこれまで、新聞連載や寄稿記事、専門誌、企業の社内報など、さまざまな媒体で執筆を続けてきました。
映画や文学を題材としたエッセイをはじめ、こころの健康や精神疾患、人間関係、社会問題などについて、それぞれの媒体の読者に向けて発信してきました。時代や読者層が異なっても、人間のこころへの関心は一貫しています。
このページでは、これまでに掲載されたコラムを媒体ごとにまとめています。それぞれの媒体でどのようなテーマが語られてきたのかをたどりながら、お読みいただければ幸いです。


庶民の文化◆生き生きとした大衆讃歌
十九世紀のパリを舞台に、芝居小屋や大通りを行き交う庶民たちの姿と、パントマイム芸人バチストと女芸人ガランスの切ない恋を描いた「天井桟敷の人々」。三時間を超える大作でありながら、恋愛映画にとどまらず、庶民の文化と生命力を生き生きと描いた作品です。大道芸やパントマイム、カーニバル、酒場のダンスなど、人々が芸術を楽しみ、仲間の恋を応援する姿が画面いっぱいに広がります。一方で、貴族の決闘や権力にこびる警察、伝統に固執する劇作家たちを風刺し、庶民文化の自由さとたくましさを浮かび上がらせます。ドイツ軍占領下のパリで製作された本作には、祖国の大衆文化への誇りと、戦争下に生きる庶民へのエールも込められているのでしょう。文化とは一部の専門家や権力者だけのものではなく、人々の日常から生まれるものだと考えさせる映画です。
9月8日


私のすすめる一冊『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』
AIが人間の仕事を奪い、2030年には「雇用大崩壊」が起こる――。『人工知能と経済の未来』は、人工知能の発展が社会や経済、そして人間の働き方をどう変えていくのかを論じた一冊です。機械学習やディープラーニング、「全脳アーキテクチャ」などの技術を紹介しながら、2030年までを「特化型AIの時代」、それ以降を「汎用AIの時代」と位置づけます。著者は、将来的には創造的仕事、管理的業務、歓待業務以外の人間労働が不要になる可能性を示します。一方で、AIには合意形成に役立つ一面があっても、人間のような創造性はないという見方もあります。AIによって仕事がなくなることは、人間の価値が失われることなのか。技術革新を単純に歓迎するのではなく、「人間はAIとともに、どのような社会をつくるのか」という問いを突きつける評論です。
9月6日


第六十四回 男はつらいよ お帰り寅さん(2019年 日本)
「困ったことがあったら風に向かって俺の名前を呼べ。どこからでも飛んで来るから」――。寅さんの言葉は、姿が見えなくなった後も人の心を支える「心の拠り所」の存在を象徴しています。映画「男はつらいよ お帰り寅さん」は、シリーズ50作目として、寅さんの甥・満男を主人公に、人生の節目を迎えた人々の再会と心のつながりを描いた作品です。満男は50歳になり、かつての初恋の人・泉と再会します。娘から「この三日間パパは遠い所に行ってしまったようだった」と言われたことで、自分が過去の思い出に心を奪われていたことに気づきます。イソップ寓話「野生の驢馬と家の驢馬」は、独りで生きることの危うさを描きます。自由に生きる野生の驢馬は、家畜の驢馬を蔑みますが、危機に遭うと誰の助けも得られません。人は完全に独立して生きるのではなく、家族や友人、思い出など、いざというときに心を支えてくれる「帰る場所」を持つことが大切なのかもしれません。
9月4日


医学◆患者さんは教師である
医学の発展は、教科書や研究室だけから生まれるものではありません。目の前の患者さんの病態をつぶさに観察し、そこから学ぶことが、新たな治療法につながります。映画「レナードの朝」は、1969年にニューヨークの神経疾患専門病棟で実際に起きた出来事をもとに、長年嗜眠状態にあった患者たちに一時的な「目覚め」をもたらした医師と患者の物語です。セイヤー医師は、患者さんの反射神経が保たれていることに気づき、リハビリや薬物治療を試みます。パーキンソン病治療薬によってレナードらは劇的に回復しますが、その効果は長く続きません。しかし、レナードの「おれに学べ」という言葉は、医師にとって患者さんこそが医学を前進させる教師であることを象徴しています。治療法を生み出すのは医師だけではなく、患者さんと家族、医療スタッフとの協働なのです。
9月2日


平行と垂直(2026年 日本)
自閉スペクトラム症(ASD)の兄と妹、そして二人を取り巻く人々の日常を描いた映画「平行と垂直」。母を早くに亡くし、母方の祖母に引き取られた兄妹は、それぞれ異なる形で人生を歩み始めます。物を平行や垂直に並べる兄は、清掃の仕事に就き、反復練習によって弁当作りも身につけています。仕事の丁寧さが評価される一方、時間がかかることを年配の同僚から指摘されるなど、社会の中で生きる難しさも描かれます。共同生活の支援者が必要なときに駆けつけ、幼い頃から兄を支えてきた妹にも結婚という人生の転機が訪れます。本作が問いかけるのは、障害の有無だけではありません。人はいつまで地域で暮らし続けられるのか、家族だけでなく周囲の人々がどう支え合うのか。「平均的人間」という概念そのものを問い直しながら、発達障害と共生社会について考えさせる作品です。
8月31日


私のすすめる一冊『ロシア革命 破局の8か月』
国家は革命する権利を奪えるのか――。2017年、ロシア革命から100年の節目に刊行された池田嘉郎『ロシア革命 破局の8か月』を取り上げ、1917年2月革命から10月革命までの激動の8か月を振り返ります。著者は、ケレンスキーやジノヴィエフらの人物像を交えながら、革命がどのように進展し、社会を大きく変えていったのかを活劇のように描きます。筆者自身も、少年時代にソビエト科学やパブロフに親しみ、学生時代にはメンシェヴィキとボルシェヴィキ、スターリニズムとトロツキズムという対立を知りました。しかし、ベルリンの壁崩壊と東欧社会主義諸国の崩壊を経て、かつて身近だったソ連社会への関心も遠いものとなっていきます。革命から100年を経た今、著者が最後に示す「異なる利害を調整できる制度を粘り強く作る」という言葉は、現代社会にも重く響きます。
8月29日


第六十二回 明日に向かって笑え(2019年 亜爾然丁)
金融危機によって財産を奪われ、最愛の妻まで失った主人公が、仲間たちとともに失った夢を取り戻そうと立ち上がる――。アルゼンチン映画「明日に向かって笑え」は、2001年の金融危機を背景に、詐欺に遭った人々の再起を描いた作品です。銀行支店長や弁護士に巧妙にだまされ、全財産を失った主人公。しかし、絶望の中でも仲間たちは農業施設の再建という夢を諦めません。イソップ寓話「ホルコス」では、不正を働いた者には、いつ現れるか分からない正義の神の罰が下されます。本作もまた、奪われたものを取り返すために人々が知恵を出し合い、連帯する姿を描きます。富・愛・名誉を幸福の条件としたアリストテレスにも触れながら、幸福とは何か、困難なときに人を支えるものは何かを考えさせる映画です。
8月27日


生きがい◆「自分らしく」が一番
「子どもが私の生きがい」と語る人は少なくありません。家族を愛し、子どもの成長を喜ぶことは大きな幸せです。しかし、生きがいを家族だけに求めてしまうと、子どもの独立や死別などをきっかけに、人生の支えを失ってしまうことがあります。映画「ミルドレッド」は、夫を亡くし、子どもたちを育て上げた一人の女性が、家族への愛情と自分自身の人生との間で揺れながら、「自分らしく生きる」ことに目覚めていく物語です。子どもの世話をすることや誰かに必要とされることだけが、生きがいではありません。家族を大切にしながらも、自分自身の人生をどう生きるのか。中年期から老後を迎える人にとって、「自分らしさ」と生きがいについて考えさせられる作品です。
8月25日
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