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院長コラム
—掲載媒体から探す—
院長はこれまで、新聞連載や寄稿記事、専門誌、企業の社内報など、さまざまな媒体で執筆を続けてきました。
映画や文学を題材としたエッセイをはじめ、こころの健康や精神疾患、人間関係、社会問題などについて、それぞれの媒体の読者に向けて発信してきました。時代や読者層が異なっても、人間のこころへの関心は一貫しています。
このページでは、これまでに掲載されたコラムを媒体ごとにまとめています。それぞれの媒体でどのようなテーマが語られてきたのかをたどりながら、お読みいただければ幸いです。


私のすすめる一冊『子育てで一番大切なこと 愛着形成と発達障害』
発達障害への関心が高まる一方で、子どもの発達を考えるときには、生まれ持った特性だけでなく、親子関係や愛着形成、子どもを取り巻く社会環境にも目を向ける必要があります。杉山登志郎著『子育てで一番大切なこと――愛着形成と発達障害』は、現代の子育てを児童精神医学の視点から考え、発達障害と愛着障害の関係、乳幼児期から学童期までの子育て、子どもの貧困、社会全体で子どもを育てることなどを論じた一冊です。本書の「愛着障害を第四の発達障害と位置づける」という考え方については議論の余地があるとしながらも、発達障害を理解するうえで、子どもの環境や人との関係を考える重要性を示しています。
9月26日


第六十七回 麦秋(むぎのあき)(1934年 米国)
世界大恐慌のさなか、失業し生活の先行きも見えないシムズ夫妻。抵当に入った農場を与えられた夫は、何をすればよいか分からないところから出発する。しかし、偶然出会った失業者を仲間に迎えたことをきっかけに、「仕事はないが、働く意欲と能力を持つ人は他にもいる」と考え、農民、大工、床屋、葬儀屋など、さまざまな職業を持つ人々を農場へ招き入れる。人々は力を合わせて畑を耕し、家を建て、一つの共同体を築いていく。やがて干魃に見舞われるが、夫の発見をもとに仲間たちは水路建設に取り組み、農場を救う。映画が描くのは、一粒の麦を育てることさえ容易ではないという農業の厳しさと、困難な時代を人々が力を合わせて乗り越える姿である。食料と農業をめぐる現代日本の問題にも目を向けながら、人は一人では生きられないこと、そして働くことや共同体の意味を考えさせる作品である。
9月24日


悪魔◆欲望や感情に打ち勝って
映画「セブン」は、キリスト教の「七つの大罪」を題材にした連続殺人事件を描くサイコスリラーである。高慢、嫉妬、暴食、色欲、怠惰、強欲、憤怒という七つの欲望や感情を、殺人という極端な形で描き出していく。退職間近の刑事サマセットと血気盛んな新人刑事ミルズが犯人を追う中、犯人ジョン・ドゥは、法を守る刑事でさえ「憤怒」にとらわれれば殺人を犯し得ることを、自らの犯罪計画によって証明しようとする。映画が描くのは、単純な「善と悪」の対立ではない。人間の心には欲望や怒りが存在し、それとどう向き合うかという問題である。また、犯罪が起こると安易に「心の闇」や異常性で説明しようとする社会の姿勢にも疑問を投げかける。人間を「悪魔」のような存在として決めつけるのではなく、その背景を理解しようとすることの大切さを考えさせる作品である。
9月22日


私のすすめる一冊『ホモ・デウス テクノロジーとサビエンスの未来』
ユヴァル・ノア・ハラリの『ホモ・デウス』は、『サピエンス全史』に続いて、人類がこれからどこへ向かうのかを壮大な視点から描いた一冊である。二十世紀の人類は、飢饉や戦争の克服、幸福の追求を目指してきた。しかし、科学技術の発展によって地球を支配するまでになった人類は、今やAIやアルゴリズムという新たな技術と向き合おうとしている。チェスや囲碁で人工知能が人間を上回ったことに象徴されるように、これまで人間だけが担ってきた知的労働や技能も、アルゴリズムに置き換えられる可能性がある。本書は、人間至上主義からデータ至上主義への転換や、知能と意識の分離といった未来を大胆に予測する。一方で、その未来像が本当に普遍的なものなのか、不死や至福を人類共通の目標にできるのかという疑問も残る。科学技術は人類を幸福にするのか、それとも人間そのものを変えてしまうのか。人類史を俯瞰しながら未来を考えさせる一冊である。
9月19日


第六十六回 釣りバカ日誌 (1988年~2009年 日本)
『釣りバカ日誌』は、建設会社に勤める万年平社員の浜崎伝助、通称「ハマちゃん」と、会社の鬼社長・鈴木一之助、通称「スーさん」の友情を描いた人気シリーズである。仕事では出世とは無縁のハマちゃんだが、釣りという趣味を得たことで人生は一変する。やがて社長と平社員という立場を超え、「スーさん」「ハマちゃん」として釣りを楽しむ二人。そこには、会社での地位や名誉とは別のところにある幸福の姿が描かれている。イソップ寓話「笛を吹く漁師」や「一生幸福でいたかったら釣りを覚えなさい」という中国の諺にも触れながら、仕事一辺倒ではない人生の楽しみ、出世と幸福の関係について考える。経済の失速とともに「五時から男」のような生き方が職場から消えつつある現代だからこそ、ハマちゃんの生き方が問いかけるものは大きい。
9月17日


障害の理解◆認知を広めた名演技
映画『レインマン』は、自閉症という障害への理解を広く社会に伝えることに貢献した作品である。中古車ディーラーのチャーリーは、父の死をきっかけに、自分には存在すら知らされていなかった兄レイモンドと出会う。自閉症のため施設で暮らす兄を、当初は遺産目当てで連れ出したチャーリーだったが、長い旅を共にする中で、兄の独特な行動や高い記憶力、その背景にある人間性を少しずつ理解していく。やがて幼い頃に自分を守ってくれた「レインマン」の正体が兄だったことを知り、チャーリーの兄に対する見方も変化していく。ダスティン・ホフマンの名演技は、自閉症の人の姿を社会に印象づける大きな役割を果たした。障害を「異質な存在」として見るのではなく、一人の人間として理解し、ともに生きるとはどういうことなのかを考えさせる作品である。
9月15日


私のすすめる一冊『近代日本一五〇年 ―科学技術総力戦体制の破綻』
山本義隆著『近代日本一五〇年 ―科学技術総力戦体制の破綻』は、明治維新から現代までの日本の近代化を、科学技術と国家の関係という視点から捉え直した一冊である。明治政府が西洋の科学技術を導入した背景には富国強兵・軍事目的があり、その後も産官学が一体となって科学技術を推進してきた。その一方で、女工哀史、足尾銅山鉱毒問題、公害、原子力政策など、国力や産業発展の陰で国民の生命や健康が犠牲にされてきた歴史も描かれる。科学技術は人間を豊かにするものなのか、それとも国家の力を増大させるための道具になり得るのか。本書を評価しながら、著者の悲観主義と読後に残る虚無感にも目を向ける。
9月12日


第六十五回 生きる(日本 1952年、UK 2023年)
「人間は何のために生きるのか」――。黒澤明監督、志村喬主演の「生きる」は、死を目前にした一人の公務員が、自らの人生を問い直し、最後に市民のための仕事を成し遂げようとする姿を描いた名作です。30年間無欠勤の市民課長・渡辺勘治は、胃癌を告知され、息子からも冷たくされることで、これまでの人生が無為だったことに気づきます。しかし、若い女性との出会いをきっかけに「生きる」ことの意味を考え始め、下水溜まりを公園に変える仕事に情熱を注ぎます。イソップ寓話「旅人とプラタナス」では、旅人から役立たずと蔑まれた木が、実は人々に大きな恩恵を与えていました。人間もまた、目立たなくても社会を支える仕事をしています。本作は官僚主義を批判すると同時に、働くことの意味、社会に貢献することの尊さ、人生の最後に何を残すのかという普遍的な問いを投げかけます。
9月10日
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