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院長コラム
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院長はこれまで、新聞連載や寄稿記事、専門誌、企業の社内報など、さまざまな媒体で執筆を続けてきました。
映画や文学を題材としたエッセイをはじめ、こころの健康や精神疾患、人間関係、社会問題などについて、それぞれの媒体の読者に向けて発信してきました。時代や読者層が異なっても、人間のこころへの関心は一貫しています。
このページでは、これまでに掲載されたコラムを媒体ごとにまとめています。それぞれの媒体でどのようなテーマが語られてきたのかをたどりながら、お読みいただければ幸いです。


性差別 ◆暴力による支配に反旗
『カラーパープル』(1985年)は、20世紀初頭のアメリカ南部を舞台に、黒人女性が性差別やドメスティック・バイオレンス(DV)、人種差別という幾重もの抑圧に抗いながら、自らの尊厳を取り戻していく姿を描いた感動作である。父親からの性虐待、夫による暴力と支配に苦しむ主人公セリーは、自立した女性シャグとの出会いをきっかけに、自分の人生を生きる勇気を取り戻していく。原作はアリス・ウォーカーのピューリッツァー賞受賞小説、監督はスティーブン・スピルバーグ。主演ウーピー・ゴールドバーグの迫真の演技は高く評価された。本作は、DVが人間の尊厳を奪う暴力であることを描くだけでなく、被害者が沈黙を破り、自らの人生を切り開く希望を力強く伝えている。性差別や暴力の問題を考えるうえで、今なお色あせない名作である。
7月1日


書評『職場結合性うつ病』加藤 敏 著
『職場結合性うつ病』は、精神疾患と職場環境との関係を長年の臨床経験に基づいて論じた、加藤敏 による意欲作である。従来、うつ病や双極性障害は主として内因性の疾患と考えられ、職場環境との関連は十分に議論されてこなかった。本書は、過重労働や職場でのストレスが発症に深く関与する「職場結合性うつ病」「職場結合性双極障害」という概念を提示し、多くの自験例をもとに新たな視点を示している。精神病理学や精神分析学に造詣の深い著者は、労災委員や研究者としての経験も踏まえ、既成概念にとらわれない臨床的考察を展開する。過労死等防止法の施行以降、働く人のメンタルヘルスへの関心は一層高まっている。本書は、精神科医だけでなく、産業医やプライマリ・ケア医を含め、勤労者を診療するすべての医師に新たな視点を与えてくれる一冊である。
6月27日


ギフト:僕がきみに残せるもの(2016年、米国)
映画『ギフト』(原題:『Gleason』)は、NFLのスーパースターだったスティーブ・グリーソンの人生を追った感動的なドキュメンタリーである。2006年、ハリケーン・カトリーナで傷ついたニューオーリンズの人々に希望を与える劇的なプレーで英雄となった彼は、わずか数年後にALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症する。さらにその直後、妻のおなかには初めての子どもが宿っていた。自分が息子の成長を見届けられないかもしれない――そんな現実を前に、グリーソンは未来のわが子へ向けたビデオメッセージを撮り始める。病気の進行によって歩行や会話の自由を失いながらも、家族への愛と希望を失わず、ALS患者支援団体「チーム・グリーソン」を設立。限られた時間を社会への贈り物へと変えていった。病や障がいに直面したとき、人は何を残し、何を伝えられるのか。本作はその問いに深い感動とともに向き合わせてくれる。
6月25日


愛憎◆感情はいつの時代も同じ
時代が変わっても、人間の感情の本質は大きく変わらない。映画『サムソンとデリラ』(1949年・アメリカ)は、旧約聖書に登場する英雄サムソンと美女デリラの物語をもとに、愛と憎しみが交錯する人間ドラマを壮大なスケールで描いた歴史スペクタクルである。怪力を授かったヘブライ人の英雄サムソンは、民族の希望として人々に慕われる存在だった。一方、美貌と策略を武器に生きるデリラは、愛する男に拒絶されたことで嫉妬と復讐心に駆られ、彼を破滅へと導いてしまう。しかし、その過程で彼女自身もまた真実の愛に気づき、深い後悔に苦しむことになる。憧れ、独占欲、嫉妬、誘惑、憎悪、復讐――。古代を舞台にした物語でありながら、そこに描かれる感情は現代社会にも通じる普遍性を持っている。愛と憎しみが表裏一体であることを鮮やかに描いた不朽の名作である。
6月23日


中年期◆真剣な勉強にいい時期
人生の途中で訪れる「学び直し」は、決して遅すぎるものではない。映画『学校III』(1998年・日本)は、 山田洋次 が手がけた「学校」シリーズの一作であり、職業訓練校を舞台に、中年期に差しかかった人々の再出発を描いている。主人公の紗和子は、夫の過労死や家庭の問題、職の喪失といった重い現実を抱えながら、再就職のためにビル管理の資格取得を目指して学びの場に身を置く。同じ教室には、リストラによって社会的地位と自信を失った中年男性・高野もおり、最初は孤立と反発を繰り返しながらも、次第に互いの人生と向き合っていく。そこには単なる職業訓練ではなく、人間関係の再構築と自己再生の過程がある。バブル崩壊後の不安定な時代を背景に、学ぶことの意味と、人が再び前を向く力が描かれている。
6月19日


愛のかたち◆罪深い芸人と天使の旅
男と女の関係には、理屈では説明できない不思議な結びつきがある。映画『道』(1954年・イタリア)は、巨匠 フェデリコ・フェリーニ が描いたロードムービーの名作であり、粗暴な大道芸人ザンパノと、純真な女性ジェルソミーナの旅を通して、愛の本質を問いかける作品である。怪力芸で生計を立てるザンパノは、身勝手で乱暴な男だが、どこか憎めない存在でもある。一方のジェルソミーナは、知的な遅れを抱えながらも、人を喜ばせることに喜びを見いだし、周囲に温かさをもたらす。二人は各地を巡る中で奇妙な絆を育んでいくが、ザンパノは自分の気持ちをうまく表現できず、大切な存在を失ってしまう。やがて彼は取り返しのつかない喪失に直面し、深い後悔に襲われる。愛とは何か、人はなぜ失って初めてその価値に気づくのか。『道』は、半世紀以上を経た今も色あせない普遍的な問いを投げかけている。
6月12日


嫉妬◆相手も自分も焼き滅ぼす
人間関係の中で、もっとも扱いが難しい感情のひとつが「嫉妬」である。映画『アマデウス』(1984年・アメリカ)は、天才作曲家モーツァルトと宮廷音楽家サリエリの対比を通して、この感情の深層を描いた作品である。物語は、老いたサリエリの回想として語られ、自らの才能に限界を感じながらも神に祈り続けた彼が、なぜモーツァルトに対して憎悪と執着を抱くに至ったのかを明らかにしていく。下品で奔放でありながら、圧倒的な音楽的才能を持つモーツァルト。その才能を前に打ちのめされたサリエリは、やがて「神はなぜ彼に才能を与え、自分には与えなかったのか」という問いに囚われ、尊敬は憎悪へと変質していく。嫉妬は相手を傷つけるだけでなく、自らの精神をも静かに蝕んでいく。華麗な音楽とともに描かれるその心理劇は、人間の弱さと業の深さを鋭く照らし出す。
6月5日


鉄人◆難病にも立ち向かった
スポーツ選手の偉大さは、記録だけでは測れない。映画『打撃王』は、ニューヨーク・ヤンキースの伝説的選手 ルー・ゲーリッグ の人生を描いた作品である。ベーブ・ルースとの強力打線で知られ、二千百三十試合連続出場という不滅の記録を打ち立てたゲーリッグは、努力家で誠実な人格者としても愛された。しかし、栄光の絶頂で彼を襲ったのが、後に「ルー・ゲーリッグ病」と呼ばれる筋萎縮性側索硬化症(ALS)だった。身体が少しずつ動かなくなる過酷な難病に直面しながらも、彼は最後まで気品と誇りを失わなかった。引退式典で語った「私は世界で一番幸せな人間だと思っています」という言葉は、病苦の中でも感謝を忘れなかった彼の人間性を象徴している。映画には ベーブ・ルース 本人も出演しており、往年のメジャーリーグの空気も味わえる。病に敗れなかった精神こそが、ルー・ゲーリッグを永遠のスターにしたのである。
5月28日
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