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私のすすめる一冊『こころの熟成:老いの精神分析』

執筆者の写真: かゆかわクリニック院長 粥川裕平
かゆかわクリニック院長 粥川裕平
8 時間前
読了時間: 2分

愛知保険医新聞 2021/11/25



ブノワ・ヴェルドン 著

堀川聡司・小倉拓也・阿部又一郎 訳

出版 白水社

2021/10/21



「もう人生でやり残したことはありません」と淡々と語る超健康老人に出会うと尊敬と羨望の念を抱く。老いと死は生物の必然だ。認知症を診療していた医療人も後期高齢者を迎えた頃から自らの認知症発症に怯え、生の終焉を覚悟する。


衰えと惚けに直面し、現役引退を考え始めている人々に格好の智慧を提供しているのが、「こころの熟成ー老いの精神分析」だ。「老いのこころ」を「老いの熟成」と改名した訳者は「老い甲斐」よりも、より本質に迫る記述に共感したのであろう。本書は老いの身体・心理・社会的側面(加齢に伴う身体や性の衰退に伴う心の問題、社会的役割、それらの臨床的実践、近親者や介護者のケアなど)に言及し「異なる専門性をもち、異なる教育を受けてきた同輩たちだけでなく、一般の人が、年齢を重ねた人たちの心的生活に関心を抱けること」(「序文」)を試みている。豊富な症例とフロイトをはじめ多数の古典の引用を縦横無尽に生かした記述で説得力があり一気に引き込まれてしまう。


「老いることは、自分にはまとまりがなく、さまざまな不完全さがあり、数々の傷を負い、変容を経ているという事実に直面することである」(七十八頁)。脳科学と精神分析学の叡智が癒合した論述は、老境に達した者には分かり良い。熟成もやがては朽ち果てる。認知症の専門家に限らず全ての人がボケる前に一読すべき書物だと思う。





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