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庶民の文化◆生き生きとした大衆讃歌

  • 執筆者の写真: かゆかわクリニック院長 粥川裕平
    かゆかわクリニック院長 粥川裕平
  • 13 分前
  • 読了時間: 2分

中日新聞朝刊 2006.12.01



「天井桟敷の人々」(1945年、フランス)



芝居小屋にも大通りにも人があふれ、大道芸人がスターになり、酒場のダンスに恋が芽生え…。十九世紀のパリが舞台の不朽の名作「天井桟敷の人々」は、大人の恋の物語であり、躍動的な庶民賛歌です。


三時間を超す映画の主軸は、パントマイム芸人バチスト(ジャン・ルイ・バロー)と、女芸人ガランス(アルレッティ)の純愛です。


初めての出会いで互いにひかれ合ったのですが、下積みのバチストは、引け目からか共に一夜を過ごすことをためらいます。その後は、思わぬライバルが現れたり、犯罪に巻き込まれたりして、二人の愛は成就せず、別々の伴侶を持ちます。 バチストは、思いを心に秘めて芸を磨き、非言語的な悲しみや慕情の見事な表現力で、看板役者になりました。ガランスは何と伯爵夫人です。そして、五年後に再会した時、二人はほとばしる熱情のまま結ばれます。でも、一夜限りの契りでした。


映画では、シェークスピア劇の伝統にこだわる劇作家たちが、こっけいな存在として描かれます。貴族の決闘の文化も、権力にこびる警察も、風刺されています。 その半面、貧しいけれどたくましい庶民の姿が、生き生きと描かれます。パントマイムの名人芸に熱狂的な拍手を送り、カーニバルの夜に興奮し、仲間の恋をこっそり応援する人たちです。


この映画が作られた当時のパリは、ドイツ軍占領下でした。撮影は苦難の連続だったそうです。マルセル・カルネ監督は、祖国の大衆文化への誇りを描いたのだと思います。互いを思い続けるバチストとガランスの姿を通じて、戦争下の庶民にエールを送ったのではないでしょうか。


今の日本では、映画も演劇も音楽も大道芸も、庶民から距離のある存在になってしまったようです。「愛国心を持とう」というかけ声が急に大きくなりましたが、庶民が誇れる「大人の文化」が育っていない国では、根なし草のような危うさを感じます。





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