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院長コラム
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院長はこれまで、新聞連載や寄稿記事、専門誌、企業の社内報など、さまざまな媒体で執筆を続けてきました。
映画や文学を題材としたエッセイをはじめ、こころの健康や精神疾患、人間関係、社会問題などについて、それぞれの媒体の読者に向けて発信してきました。時代や読者層が異なっても、人間のこころへの関心は一貫しています。
このページでは、これまでに掲載されたコラムを媒体ごとにまとめています。それぞれの媒体でどのようなテーマが語られてきたのかをたどりながら、お読みいただければ幸いです。


第八回 塩を運ぶ驢馬
人は誰しも弱点や苦手を抱えているが、それにどう向き合うかで人生は大きく変わる。
イソップ寓話「塩を運ぶ驢馬」は、安易な成功体験に頼った結果、思わぬ破滅を招く愚かさを描く。
一方、映画『アイリスへの手紙』は、読み書きができないという致命的な弱点を抱えた男スタンリーが、他者の支えと自己努力によってそれを克服していく姿を丁寧に描く。貧困や喪失といった厳しい現実の中でも、誠実に生きようとする人間の強さが静かに浮かび上がる。楽をして困難を回避しようとするか、それとも困難に向き合い乗り越えるか――本作はその選択の重みを問いかける。
2022年5月30日


第七回 守銭奴
映画『マルサの女』は、脱税を暴く国税査察官の活躍を通して、人間の金銭欲と執着を鋭く描いた作品である。やり手の査察官・亮子は、ラブホテル経営者・権藤の不正を疑い、徹底的な調査に乗り出す。巧妙に隠された資産、偽装された証拠、そして人間の欲望が絡み合う中で、真実が徐々に浮かび上がっていく。
一方、イソップ寓話「守銭奴」が示すように、使われることのない金はただの石と変わらない。本作は、金を蓄えること自体が目的化したとき、人は何を失うのかを問いかける。尽きることのない欲望と、それに翻弄される人間の姿を通して、金と生き方の関係を深く考えさせる作品である。
2022年5月19日


第六回 プロヴァンスの贈りもの
映画『プロヴァンスの贈りもの』(原題:A Good Year)は、成功を追い求める都会人が、南仏の穏やかな暮らしの中で本当の豊かさに気づいていく物語である。
ロンドンで成功を収めたマネートレーダーのマックスは、叔父の遺産相続をきっかけにプロヴァンスを訪れる。当初は資産価値しか見ていなかった彼だが、土地や人々との関わりの中で、金銭では測れない価値に触れていく。拝金主義に染まっていた心が、自然や人との絆によって少しずつ解きほぐされていく過程は、現代社会への問いかけでもある。
本作は、欲望を追い続ける生き方と、心の充足を大切にする生き方の対比を通じて、人生における本当の幸福とは何かを描き出している。
2022年5月18日


第五回 農夫と息子たち
映画『遥かなる大地へ』は、新天地アメリカを目指した若者たちの夢と挫折、そして再起を描いた壮大な人間ドラマである。十九世紀末のアイルランドで貧しい小作農として生きていた主人公ジョセフは、父の死と家の焼失をきっかけに運命を変えるため新大陸へと渡る。道中で出会ったシャノンとともに数々の困難に直面しながらも、彼らは決して希望を失わない。
すべてを失い、どん底を味わいながらも、自らの力で道を切り拓こうとする姿は、イソップ寓話「農夫と息子たち」が示す“努力こそ宝”という教訓と重なる。
本作は、苦労の積み重ねがやがて実を結ぶこと、そして夢を追い続ける意志の尊さを力強く描いている。
2022年5月9日


第四回 ジャイアンツ
映画『ジャイアンツ』は、テキサスの広大な牧場を舞台に、富と権力、そして家族の変遷を描いた壮大な人間ドラマである。エリザベス・テイラー演じるレスリイは東部から嫁ぎ、価値観の違いに戸惑いながらも新たな家庭を築いていく。一方、貧しい青年ジェットは石油の発見によって一躍成功者となり、ジェームズ・ディーンが演じるその姿は、野心と孤独を象徴している。時代の進展とともに、牧場主としての誇りに生きるビックと、変化を受け入れる次世代との間には溝が生まれる。富や成功に支えられた栄華は決して永続せず、人種問題や価値観の対立が人間関係を揺さぶる。
本作は、誇りと傲慢、そして時代の流れに翻弄される人間の姿を重厚に描き出している。
2022年4月25日


第三回 バックドラフト
「下手な刈り手に苦しめられるくらいなら、いっそ一思いに」というイソップの寓話は、未熟な技術が人に与える苦しみを鋭く突いている。
映画『バックドラフト』は、その対極として、未熟さからプロ意識へと成長する姿を描いた作品だ。舞台はシカゴ。主人公ブライアンは、新米消防士として現場に立ちながら恐怖や劣等感に直面する。英雄的な兄の存在や、父の死の記憶が彼を縛る一方で、火災という極限状況が彼を鍛え上げていく。やがて仲間の死という現実に直面し、彼は「生き残る責任」と職業の意味を自覚する。
音楽を手がけたハンス・ジマーの重厚な旋律が、命を懸ける仕事の重みを一層際立たせている。
2022年4月18日


第二回 亀と兎
イソップ寓話『亀と兎』は、才能に慢心する者と、努力を積み重ねる者の対比を通して、継続の力の重要性を教えてくれる。発明王のトーマス・エジソンも「天才は1%のひらめきと99%の努力」と語ったように、才能だけでは成果は保証されない。
映画『クール・ランニング』は、この寓話を現代的に体現した作品だ。舞台は常夏の国ジャマイカ。氷上競技とは無縁の若者たちが、ボブスレーという未知の世界に挑戦する。経験も環境も不足する中で、彼らは失敗を重ねながらも努力を続け、自分たちのスタイルを築いていく。結果以上に彼らが手にしたのは「誇り」と仲間との絆だった。才能か努力かという単純な二択ではなく、自分を信じてやり抜く姿勢こそが人を成長させる――そんな普遍的なメッセージが胸に残る。
2022年4月11日


第一回 黄昏
イソップ寓話『胃袋と足』は、互いに優劣を競うのではなく、支え合うことで成り立つ関係の本質を説いている。胃袋が栄養を送り、足が体を運ぶように、社会のあらゆる役割は相補的に機能している。この視点は、職場の上下関係や組織間の力学を考えるうえでも示唆に富む。やがて人は歳を重ね、仕事人生の終着点を迎える。そのときに訪れるのが「黄昏」の時間だ。
映画の世界では、ドライビング Miss デイジーや野いちごが老境の心理を繊細に描き出している。また、中年期の葛藤と責任を描いたたそがれ清兵衛や、過去と向き合う人生を描く許されざる者は、働き続けてきた人々の内面を浮かび上がらせる。人生の各段階で問われるのは、競争ではなく「どう支え、どう生きるか」という姿勢なのかもしれない。
2022年3月31日
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